蒸発が濃縮した「化学の罠」
タンザニア北部のナトロン湖は、流入する水が蒸発でしか失われない塩湖だ。死海やグレートソルト湖と同じ原理で塩分が濃縮されるが、この湖を特異にしているのは、大量に含まれるナトロン(炭酸ナトリウムと重曹の混合物)である。
スミソニアン誌の報道によれば、pHは最大10.5に達し、アンモニアに迫る強アルカリ性を示す。写真家ニック・ブラントは「コダックのフィルムケースのインクが数秒で剥がれ落ちた」と証言している。水温は約60℃に上ることもあり、この過酷な環境で生きられる魚は Alcolapia latilabris という1種だけだ。湖岸には藻類と、それを餌にするフラミンゴのコロニーが暮らすのみだという。
渡り鳥を欺く「巨大な鏡」
ナトロン湖で命を落とすのは、多くの場合、渡り鳥だ。化学物質の濃度が極めて高い湖面は鏡のように光を反射し、鳥たちは何もない空間を飛んでいると錯覚して湖面に激突するとみられる。ブラントはこの現象を「ガラスのドア」に例えている。
この幻影に騙されるのは鳥だけではない。過去にはヘリコプターのパイロットが同じ錯覚で墜落し、機体は湖水によって急速に腐食されたという。乾季になると水位が下がり、強アルカリ水で化学的に保存された鳥の死骸が湖岸に打ち上げられる。ブラントは約45メートルの区間に100羽ものフィンチが並んでいる光景を目撃した。「まるでレミングのように、群れごと一斉に流れ着いていた」と彼は語る。
「石化」の肖像を記録する
2011年、東アフリカの消えゆく野生を撮影する旅の途中で、ブラントはナトロン湖に辿り着いた。石のように硬化した動物の死骸を初めて見た瞬間、「完全に打ちのめされた」と彼は振り返る。約3週間、現地の人々と協力して保存状態の良い標本を収集した。「地元の人たちからすれば、死んだ鳥を探して金を払う私は完全に狂って見えただろう」とブラントは笑う。
コウモリ、ツバメ、ハト、ウミワシ——ブラントはそれらの死骸を枝の上に止まらせ、生きているかのように撮影した。「体は発見されたときの状態そのものだ。私がやったのは、硬直した爪を枝に通して止まらせただけ」と彼は強調する。「The Calcified(石灰化)」と題されたこの連作はニュー・サイエンティスト誌にも掲載され、写真集『Across the Ravaged Land』に収録された。
pH10.5の強アルカリ水は渡り鳥を石灰の彫像に変える。だがフラミンゴたちは、まさにその環境を安全な繁殖地として選んでいる。石化したウミワシと生きたフラミンゴが同じ湖岸に並ぶ光景を、ブラントのカメラは静かに収めた。

