2026/05/03
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「年25センチ」沈むメキシコシティ、NASA衛星が映す危機

「年25センチ」沈むメキシコシティ、NASA衛星が映す危機
Photo by Fernando Paleta on Pexels

宇宙から見えた「ゆっくりとした崩壊」

NASAとインド宇宙研究機関(ISRO)が2025年7月に打ち上げた地球観測衛星「NISAR」が、メキシコシティの地表沈下を高精度で捉えた。NASAが公開した観測データによれば、市内の一部では毎年約25センチも地表が沈み込んでいるという。

過去1世紀の累積では12メートルを超える沈下が記録されている。10階建てビルがすっぽり埋まる規模だ。NISARは直径12メートルという、NASAがこれまで宇宙に送り込んだなかで最大のレーダーアンテナを搭載し、12日ごとに地球の陸地と氷を繰り返しスキャンする。地表のミリ単位の変化を検出できるその目には、日々ゆっくりと崩れていく都市の姿が映る。

古代湖の上に立つ2,200万人の都市

メキシコシティが沈む理由は、その立地そのものにある。約2,200万人が暮らすこの巨大都市は、かつてアステカ文明が築いた首都テノチティトランの地、すなわち古代湖テスココの湖底の上に建てられた。

地下深くに広がる帯水層から、住民の生活用水のために大量の水が汲み上げられ続けてきた。水を失った地層は圧縮され、地表はその圧縮に引きずられるように沈み込む。象徴的なのが、市内のグアダルーペ寺院だ。建物全体が傾き、観光客の足元で歴史的建造物が物理的に揺らいでいる。

問題は沈下のスピードだけではない。沈み方が場所によって異なるため、建物の基礎にねじれが生じ、配管が裂け、地下鉄のトンネルにも歪みが伝わる。修復コストは積み重なる一方だ。

NISARが照らし出す対策の道筋

NISARが切り拓くのは、メキシコシティだけの話ではない。L帯とS帯という二つの異なる波長のレーダーを同時搭載した史上初の衛星は、世界中の地盤沈下、地震、火山活動、氷河の融解を同じ精度で観測する。サイエンスチームは、世界各地から新しい発見が次々と報告されるはずだと期待を寄せる。

衛星から見える「沈みゆく都市」の正確な地図は、対策の出発点になる。どの地区で地下水の汲み上げを規制すべきか、どの建物を優先的に補強すべきか、雨水貯留システムをどこに配置すれば帯水層を回復できるか。判断材料が、これまでとは桁違いの解像度で提供されるようになる。

沈みゆく古代湖の都が、宇宙からの視線によって、再生のヒントを掴みつつあるのかもしれない。

Source: nasa.gov