米スタートアップGeneration Lab(ジェネレーション・ラボ)が掲げる注射薬「1 Generation(ワン・ジェネレーション)」は、既存薬2種類を組み合わせたものだという。血流に広がる老化を食い止め、複数の臓器に若さを取り戻すとうたうが、その2種が何なのかは明かされていない。
血液を若返らせる注射薬とは、そもそも何か
若い個体の血を老いた体に流し込むと、体が若返る。その現象を注射1本で再現しようというのが、Generation Labの主張だ。
発想の源にあるのは「パラバイオシス」と呼ばれる古典的な実験である。老いたマウスと若いマウスの血管をつなぎ、循環系を共有させると、老いた側が若々しく振る舞い始める。異なる年齢の血を交換するこの手法は、動物を実際に若返らせることが確認された数少ない方法の一つだ。この分野を長く牽引してきたのが、カリフォルニア大学バークレー校で研究歴を積んだ生物学者イリーナ・コンボイである。
とはいえ、人が一生を若者と血管でつながれて過ごすわけにはいかない。そこで課題は「つながずに同じ恩恵を得る」ことに移った。コンボイは、若返り効果を持つ2種類の既存薬を組み合わせることでそれを実現したとMITが発行する技術専門誌『MIT Technology Review』の取材に語っている。
報告された「効果」と、消えない違和感
会社が示す効果リストは具体的だが、いずれも本人や身内による自己申告にとどまる。
広報から記者に渡されたスプレッドシートには、64歳女性の視力改善、59歳男性の庭仕事が長続きするようになったこと、バドミントンの試合時間が延びたこと、握力の向上、バイアグラを上回る勃起、さらには「排便回数の増加」まで並んでいた。実際に接種しているのは、コンボイ本人と、夫で共同研究者のマイケル・コンボイ、そして26歳のCEOアリーナ・スーら、ごく内輪の数人である。この2カ月ほど、以前より元気になったと彼らは言う。
だが、もし本当に効く若返り薬なら、それは史上最も売れる商品になるはずだ。問題は、そう証明された薬がこれまで一つもないという点にある。効果の確かな証拠が出そろう前から、著名人を含む長い順番待ちリストに薬が配られている。この順序の逆さまさが、最初の違和感だ。
試験を率いるのは「代替医療」の医師たち
100人規模で計画される大規模試験を主導するのは、科学的根拠の乏しい治療を掲げてきた医師たちである。
その一人が、クリニック網BioReset Medical(バイオリセット・メディカル)を創設したマット・クックだ。彼のクリニックは幹細胞注射のような、有効性の確立していない治療を提供してきた。2021年の報道によれば、クックはFDA(米食品医薬品局)が「詐欺的」と指定した新型コロナ治療、たとえばネブライザーで羊水を吸入する処置まで勧めていたという。
皮肉なのは、そのクック自身が組み合わせ薬を試したうえで懐疑を隠さないことだ。「効くという確信はゼロだった。本気で信じていなかった」と彼は言う。安全で安価なジェネリック2種、しかも本来は長寿薬ですらないからだ。ところが接種後、一日、やがて数日と続く精神の冴えを感じ、他の被験者も体調の良さや古い痛みの消失を報告したという。「どちらの薬の作用とも一致しない、幅広い症状が出た。仕組みは正直わからない。答えより疑問のほうがずっと多い」。効果があったのか、思い込みなのか。当事者ですら判断を保留している。
「若返り」を科学に引き戻せるか
確かなのは、若い血そのものが体を変える力は実在の科学だという点だ。
パラバイオシスは真っ当な研究テーマであり、コンボイはそこで確かな業績を積んできた。組み合わされたのも、安全性の分かった既存薬である。ならば残る問いはただ一つ、内輪の体感ではなく、対照を置いた厳密なデータが出せるかどうかに絞られる。当初「参加者が費用を払う」と報じられた大規模試験は、後の訂正で会社が費用を負担する無償の試験になると明らかにされた。証拠を示す舞台自体は整いつつある。
若返りの夢を注射1本に託せるのかは、伏せられた2種の薬名が明かされ、身内以外の被験者のデータが並んだときに、ようやく見えてくるのかもしれない。





