米コンサルティング大手マッキンゼーは2030年までに中国でAI人材が約500万人不足すると試算する。大学など既存の育成ルートが供給できるのは、需要の約3分の1にすぎない。
なぜ中国企業は高校生をAIエンジニアとして採用するのか
一流のAIエンジニアが決定的に足りず、市場が本人の価値に値段をつける前に「原石」を囲い込むためだ。若い技術者ほど採用コストが低く、企業にとどまる期間も長いと見込まれている。
杭州(こうしゅう)に住む13歳の少年は、その象徴だ。中国各地のAIモデル構築コンテストで優勝を重ね、ライフスタイル系ECアプリ「小紅書(シャオホンシュー)」では13万6,000人のフォロワーを集める。父親は「うちはごく普通の家庭です。最大の悩みは、何をどう学ばせればいいのか分からないこと。今はほとんど独学です」と、国際的なテックメディア『Rest of World』に語っている。
人材難の数字は生々しい。1〜5月に中国の企業が出したAI求人は、有資格者1人あたり3.08件。AIエンジニア職は前年同期比で28.4%増えた。北京のエコノミストは「AI人材は希少であると同時に、異例なほど拡張可能な資産になった。市場が完全に値付けを終える前に、伸びしろの大きい才能を先取りしようとしている」と分析する。
テンセント、バイトダンス、吉利が開いた3つの入口
大手は、キャンプ・研究トレーニー・就職保証という3つの異なる方法で10代に接近している。教育プログラムにとどまらず、学校から就職までの道筋そのものを組み替え始めた企業もある。
テンセントは6月、13〜18歳を対象にしたキャンプを相次いで開設した。AIプロダクトマネジメント、ロボティクス、量子コンピューティングなどを3〜8週間かけて指導する。バイトダンス創業者の張一鳴(ジャン・イーミン)は2025年10月、16〜18歳向けの非営利研究センターを共同で立ち上げた。毎年30人を専属の研究トレーニーに選び、応募者には成績証明書に加え、「わが子の学びをどう支えてきたか」を記した保護者の一文まで求めるという。
さらに踏み込んだのが自動車大手・吉利(ジーリー)だ。今年3月に始めた制度は、高校卒業直後の学生を採用し、訓練と就職を保証する。給与は大学卒と同水準に設定された。学生は年5,800元(約800ドル)の学費を払うが、各学年を無事に修了すれば返金される仕組みだ。AI、新エネルギー車、低空飛行、衛星技術を、学業と並行して学んでいく。
「若さより、むき出しの知性」という異論
大手が低年齢化に走る一方で、有力スタートアップのMiniMax(ミニマックス)は高校生の直接採用をはっきり否定している。求めているのは年齢ではなく、その人の「原石のままの知性」だという。
同社の社員の平均年齢は29歳、7割超が研究開発に携わる若い集団だ。それでも幹部のユナン・ジャンは「AIはとても新しい産業だ。過去の職務経験の多くは、もはや通用しないどころか有利ですらない。学位も絶対的な基準ではなく、あくまで参考でしかない」と語る。同社が見るのは、知的好奇心とAIへの情熱、そして能力を裏づける実績だという。
この発想は中国だけのものではない。グーグル共同創業者のセルゲイ・ブリンは、学士号のない人材の採用にも前向きだと明言してきた。実際、グーグルの求人で大卒を要件とする割合は2017年の93%から2022年には77%まで下がっている。学歴という物差しは、AIの世界で急速に相対化されつつある。
それでも「まだ子ども」という視点は残る
高校生への投資の多くは、即戦力の採用ではなく、数年がかりの人材プール作りだと専門家は指摘する。採用の決定はいまも大学・大学院の段階が中心で、過熱の裏で当の子どもたちには学び、休み、遊ぶ時間もまだ残されている。
AI採用支援企業UFound共同創業者のクリス・ペイは「高校生への投資は、長期的な人材プールを築くためのものだ。企業は数年かけて彼らの成長を追い、いずれ採りたい人物へ育つのは誰かを見極めたい」と話す。プログラムの立ち上げ自体が、「才能に投資する企業」というイメージ作りにもなっているという。
冒頭の父親は最近、息子の公開イベントや大会への参加を一度止めようかと考え始めた。休み、遊び、学校の勉強に向き合う時間を増やすためだ。「親としては複雑です。あんなに夢中でものづくりをしているのは分かる。でも、学ぶべきことはまだ山ほどある。なにしろ、まだほんの子どもですから」。AIモデルを組み上げる才能と、遊びたい盛りの13歳。そのあいだで揺れているのは、親も、そしておそらく企業も同じなのかもしれない。





