2026/07/19
SPARKL

OpenAI社内講演で米ベストセラー作家、ChatGPTが若者世代の書く力を「沈黙させる」と断罪

OpenAI社内講演で米ベストセラー作家、ChatGPTが若者世代の書く力を「沈黙させる」と断罪

米ベストセラー作家デイヴ・エガースは、OpenAIの社員約200人を前にした社内講演で、ChatGPTが「教育者の生活を破滅的に変えた」と批判した。招いたのは、CEOのサム・アルトマン本人だった。

OpenAIの社員200人が聞いた、作家の「宣戦布告」

エガースが壇上で語ったのは、AIの活用術ではなかった。ChatGPTが教師の仕事を「2年前より果てしなく難しくした」という、招いた側への痛烈な批判だ。

昨年、アルトマンは多作で知られるこの作家を招いた。小説や脚本を量産する秘訣、複数の分野で成果を出す方法——そんな話を期待した社員もいたかもしれない。ところが米テックメディアThe Vergeが報じたところによれば、エガースは会社そのものに切り込んだ。フィナンシャル・タイムズの取材に沿えば、彼はこう述べたという。「ChatGPTが教育者の生活に与えた影響は破滅的だ。意図したかどうかにかかわらず、あなたたちはすべての教師の人生を、2年前より果てしなく難しくした」。

そもそもエガースが何者かを知らない日本の読者も多いだろう。米国のベストセラー作家で、小説・脚本・ジャーナリズムを幅広く手がけ、独立系出版社マクスウィーニーズを立ち上げた人物だ。作家や芸術を支える学校や非営利団体もいくつも創設してきた。書くことと、書き手を育てることに人生を注いできた書き手が、書く道具を売る会社の中枢で口を開いた。

なぜChatGPTが「一世代を沈黙させる」のか

生徒が文章をAIに「作らせる」ようになれば、書く技術を一度も身につけず、自分の言葉で真実を語る力を奪われるからだ。エガースはこれを最大の悲劇と呼んだ。

彼の言葉はこう続く。「もし生徒たちが文章を組み立てるのにこれを使うなら——それが何より悲劇なのだが——彼らは書き方を学ばない。そして声を盗まれる。自分の真実を口にし、自分の物語を語る力を、永遠に持てなくなる。それは、一世代、二世代をまるごと沈黙させることだ」。

ここで彼が言う「声(voice)」は、単なる文章力ではない。何を感じ、何を考え、それをどう並べれば他人に届くのか——書くという作業を通してしか手に入らない、思考の輪郭そのものを指している。下書きを消しては書き直す面倒な往復を飛ばした先に、整った文章は残っても、その人固有の声は残らない。エガースの懸念は、成績や不正の話ではなく、もっと手前にある。

「書く」という創造性を、若い世代は手放すのか

エガースの懸念の核心は、若い世代が自分で文章を組み立てる経験そのものを失う点にある。書くことは考えることであり、その訓練の場が消えれば、思考の型も育たない。

そして皮肉なことに、この批判をぶつけた相手こそ、ChatGPTを世に出した当のOpenAIだった。アルトマンはおそらく、何が起きるか分かったうえで彼を招いている。エガースのベストセラー小説『The Circle(ザ・サークル)』は、テック業界への痛烈な風刺として書かれた作品だ。彼はAIが生成する文章を「パスティーシュ(模倣の寄せ集め)のたわごと」とまで言い切っている。批判者だと承知のうえで壇上に上げたのなら、それは沈黙よりはるかに誠実な選択だったとも言える。

テック業界の未来を先回りして描いた作家が、そのテックの心臓部で語ったのは、機械の性能ではなく、人間が自分の声で書き続けられるかという問いだった。壇上の一時間が200人の開発者に何を残したのかは、まだ誰にも分からない。ただ、AIを最も速く進める人々が、その道具に最も鋭い批判をわざわざ聞きに集まったこと自体が、この問いがまだ生きている証しなのかもしれない。