Midjourney(ミッドジャーニー)は2026年春、占星術アプリ「Co-Star(コースター)」を買収した。取引額は非公表。Co-Star創業者のバヌ・グラーは同社の最高デザイン責任者に就き、Midjourney初となる自社アプリ群の開発を率いる。
なぜMidjourneyはCo-Starを買収したのか
狙いは占星術そのものではない。消費者に届くアプリを作れる人材と、その設計力だ。
この取引を最初に報じたのは米経済メディアのブルームバーグで、米テックメディアのThe Vergeも詳細を伝えている。画像生成AIで知られるMidjourneyの創業者デビッド・ホルツによれば、Co-Star創業者のグラーは買収後もアプリの責任者にとどまる。それと同時に、彼女はMidjourneyの最高デザイン責任者という肩書きも背負う。ホルツはブルームバーグに対し、グラーとそのチームが同社にとって初めての自社アプリ開発を助けると語った。その第一弾には、画像生成に特化したアプリも含まれるという。
意外に思えるかもしれないが、Midjourneyには自前の「普通のアプリ」が存在しない。同社のAIモデルは、ウェブとチャットツールのDiscord(ディスコード)上でしか動いていない。数百万人が使う技術を持ちながら、洗練された入り口を欠いてきたわけだ。
そもそもCo-Starとは何のアプリか
Co-Starは、毎日の運勢と友人との相性を無料で占うパーソナライズ型の占星術アプリだ。NASA(米航空宇宙局)の天体データと人間の知見、そしてAIを組み合わせて、利用者一人ひとりに助言を届ける。
日本で「占いアプリ」と聞くと、雑誌の星占いをスマホに移した程度のものを思い浮かべる人が多いだろう。だがCo-Starの立ち位置は少し違う。惑星の実際の位置を天文データから引き、そこに独自の言葉づかいを重ねて、その日の一言を送りつける。数字とアルゴリズムで動く「デザイン主導のアプリ」として、若い世代に根を張ってきた。
つまりMidjourneyが買ったのは、占いの中身ではなく、毎朝スマホを開かせる仕掛けを作れるチームだったとみられる。
猫の画像から人体スキャン、そして自社アプリへ
Midjourneyのこの数年は、AIで猫の画像を生む会社から全身スキャンの領域へと、事業の輪郭を大きく広げてきた歴史だった。占星術アプリの買収は、その拡張の最新章にあたる。
The Vergeは以前、同社の身体スキャナーへの進出に「どこか噛み合わない」と首をかしげていた。画像生成、医療的なスキャン、そして星占い。並べてみると脈絡がないように映る。しかし一本の線を引くとすれば、それは「AIが生み出したものを、人がどう受け取るか」という体験の設計だ。技術そのものより、その届け方に軸足を移そうとしている。
グラーを最高デザイン責任者に据えた人事は、その意思表示と読める。強力なモデルは持っている。足りないのは、それを毎日の暮らしに溶かし込む腕前だった。
生成AIの次の主戦場は「使い心地」
技術で先行してきた生成AI企業の競争軸は、モデルの賢さから、日常に自然になじむ使い勝手へと移りつつあるようだ。
どれだけ精緻な画像を吐き出せても、使う人が入り口の前で立ち止まってしまえば意味をなさない。Discordのコマンドを覚える手間を、朝の星占いを開くような軽やかさに変えられるか。そこにグラーとCo-Starのチームが呼ばれた理由がありそうだ。
AIで猫を描いていた会社が、星の巡りを読むアプリの設計者を迎える。その先に生まれる「初めての、普通のアプリ」が、生成AIを一部の愛好家の道具から、毎朝ひらくものへと変えていくのかもしれない。





