同居する恋人どうしは口腔内細菌の約44%、腸内細菌の約19%を共有していた。イタリアとフィジーの207世帯430人を解析した最新研究の結論だ。
なぜ同居人と腸内細菌を共有するのか
同じ皿で食べ、同じ空間で暮らすうちに、細菌が人から人へと移っていくためだ。イタリア・トレント大学のチームが今週発表した研究は、同居する人どうしが関係を問わず腸内細菌の約19%を共有していることを突き止めた。
研究を主導したのは、トレント大学の計算生物学者ヴィトル・ハイドリッヒ。出発点は素朴な疑問だった。「人は生まれる前には微生物叢を持っていない。だからそれらは、どこかからやってきているはずだ」。私たちの内側に棲む細菌の出どころを追ったのが、この調査だった。
イタリアとフィジーの207世帯、430人分の微生物のDNAを解析した結果は、ときに居心地の悪い真実を突きつける。ハイドリッヒ自身が認めるように、腸内細菌を共有しているという事実は「同居人の便に由来する細菌を、いくらか飲み込んでいる」ことを意味する。しかも、たった1個の細菌細胞でも定着には十分だという。詳しくは米公共ラジオNPRの報道が伝えている。
キスをする恋人ほど、口の中が似てくる
恋人どうしは口腔内細菌の約44%を共有し、同居人全体の平均である26%を大きく上回った。唾液を直接やり取りするキスが、細菌の行き来を加速させているとみられる。
この数字の差を、ハイドリッヒは「人が直接唾液を交換するとき、たとえばキスを通じて、株の共有がはるかに多く見られるという、うれしい裏づけ」と表現する。同じ屋根の下で暮らすだけの相手より、唇を重ねる相手のほうが、口内の生態系まで似通っていく。
口腔内細菌は腸内細菌より調べるのが難しいとされてきた。コーネル大学で微生物の伝播を研究する生物医工学准教授イラナ・ブリトは、今回の手法をこう評価する。「わくわくする。口腔内の微生物叢はとにかく研究が難しいので、こうしたシグナルを拾えたのは刺激的だ」。ブリトが2019年に行ったフィジーでの伝播研究のデータも、今回の解析の土台のひとつになった。
共有される細菌に、リスクはあるのか
現時点でははっきりしない。ただし研究チームは、移りやすい細菌の一部が2型糖尿病のリスク上昇と関連していたと報告している。
まず前提として、細菌の大半は無害か、むしろ体に役立つ。便由来のものも例外ではない。専門家のなかには、ヒトに病気を起こす細菌は10億種に1種ほどだと見積もる声もある。だからこそ、共有という事実そのものに過剰に怯える必要はない。
それでも、移りやすい菌の一部が病気と結びついていた点は気にかかる。ジョンズ・ホプキンス大学の感染症内科医で医学准教授のジェシカ・クイーンは、こう問いを立てる。「パートナーや同居する家族の微生物叢の状態が、あなた自身の発症リスクに影響するのか」。ただしクイーンは、微生物叢と病気の関係はおそらく双方向だと釘を刺す。細菌が病気のリスクを左右する一方で、病気のほうが体内の細菌構成を変えている可能性もある。何が原因で何が結果か、実験で証明するのは極めて難しいという。ハイドリッヒ自身も「そうした主張をするには、まだはるかに遠い段階だ」と慎重だ。
何百万年も続けてきた、人間の営み
それでも研究者本人は、心配していない。微生物の交換は、人類が集団で暮らしてきた何百万年もの歴史に根ざした営みだからだ。
ハイドリッヒは妻と2匹の猫と暮らしている。ペットも自分の微生物叢に多少は寄与しているはずだと認めつつ、こちらはあまり気にしていない。猫は消化管の環境が人間と大きく異なり、菌が移るには「より大きな生態学的な壁」があるからだ。妻との同居についても同じく楽観的で、「人類は何百万年も、ときに大きな集団で一緒に暮らしてきた。私たちの霊長類の親戚もそうだった」と語る。周囲の人と細菌を交換することは、人間という経験そのものに織り込まれている、というわけだ。
微生物叢は免疫や消化、さらには脳にまで影響しうると考えられている。誰と暮らし、誰とキスをするかは、目に見えない生態系の設計図を少しずつ書き換えているのかもしれない。同じ皿をつつき、唇を交わしながら、私たちは知らぬ間に細菌を分け合ってきた。それは何百万年も続いてきた、人間という生き物のごく自然な営みのようにも見える。





