ソニー・ミュージックは7月20日、文章の指示から楽曲を自動生成するAIサービス「Udio(ユーディオ)」を相手取り、3万曲超を無断で学習に使われたとしてニューヨークの裁判所に提訴した。これは同社が権利を持つ楽曲の「ごく一部」にすぎないという。
なぜソニーはUdioを著作権訴訟に踏み切ったのか
ソニーは、自社が権利を持つ3万曲以上がUdioの生成AIに無断で取り込まれたと主張しているためだ。対象にはエルビス・プレスリーの「ハウンド・ドッグ」から、ビヨンセの「セイ・マイ・ネーム」、ハリー・スタイルズの「アズ・イット・ワズ」まで含まれる。
Udioは、打ち込んだ文章の指示に応じて数十秒で「新曲」を生成するAIサービスだ。人気の生成AI音楽サービス「Suno(スーノ)」と並ぶ存在として知られ、日本でいえば作曲の自動化ツールにあたる。問題は、そのAIが自然に音楽を「作れる」ようになった過程で、既存のヒット曲を大量に聴かされていたのではないか、という点にある。
ソニーはこの主張を、7月20日にニューヨークの裁判所へ起こした新たな訴訟で展開した。3万曲というリストですら「侵害された作品の一部にすぎない」とし、今後さらに拡大しうると強調している。エルビスからハリー・スタイルズまで、およそ70年分のカタログが一つの訴状に並ぶ光景は、これまでの音楽訴訟にはなかった規模だ。
「333曲」から「3万曲」に膨らんだ訴訟の裏側
きっかけは、裁判の証拠開示でUdioの学習データそのものにアクセスできたことだ。ソニーは楽曲の音の特徴を照合する「音声フィンガープリント」という技術を使い、自社カタログとの一致を3万曲超まで突き止めたとされる。
証拠開示(ディスカバリー)とは、訴訟の当事者が互いに手持ちの資料を開示し合う米国の制度をいう。ソニーはこの手続きでUdio側の内部データを覗き、フィンガープリント照合をかけた。指紋を照合するように、楽曲一つひとつの音響的な「指紋」を突き合わせる手法だと考えればわかりやすい。
この訴訟には前史がある。2024年、ソニーはユニバーサル ミュージック、ワーナー レコードとともに、UdioとSunoを相手取って提訴していた。その後ソニーは3万曲超を訴訟対象に追加しようと申し立てたが、裁判官はこれを認めず、元の訴訟の範囲は333曲にとどまっていた。今回ソニーは、宙に浮いた3万曲を新たな訴訟の主題として立て直したことになる。しかもUdio側は、自社のAIモデルが「膨大な種類の録音を見せることで構築された」と認めており、そこにはYouTubeからの音源も含まれるという。
ユニバーサルとワーナーは、なぜ争うより「組む」を選んだのか
同じ2024年にUdioを訴えた米ユニバーサルとワーナーは、すでに和解し、いまはUdioと提携している。音楽業界がAIを敵視から取り込みへと舵を切り始めた、その象徴的な出来事だといえる。
かつて三社そろって訴えた相手と、二社はいまビジネスパートナーになった。背景には、生成AI音楽がすでに無視できない市場に育ちつつある現実がある。訴え続けて勝っても、技術そのものは止まらない。ならばライセンス料を取りながら共存する道を探る方が実利がある、という判断が働いたとみられる。
その中で、ソニーだけが強硬姿勢を崩していない。3万曲という数字は、和解のテーブルにつくにしても交渉材料を最大化する布石にも見える。実際、ソニーは訴訟対象をさらに広げる可能性にも言及した。争うのか、組むのか。同じ楽曲を守る立場でありながら、大手三社の足並みははっきり割れている。
AIと音楽の「新しい契約」はどこへ向かうのか
音楽業界とAI企業の関係は、訴訟と提携が同時に走る複雑な局面に入りつつある。ソニーが法廷で強気を貫く一方、ライバル二社はすでにAIと商売を始めた。
この温度差は、これから世界中のレコード会社が直面する選択を先取りしている。過去の名曲は、AIにとって最良の「教科書」だ。その教科書に値札をどうつけるのか、そもそもつけられるのか。答えはまだ誰も持っていない。裁判の行方は、日本のアーティストや音楽ファンにとっても、自分の聴いてきた曲がどう扱われるのかという話につながっていく。
「ハウンド・ドッグ」から「アズ・イット・ワズ」まで、70年分のヒット曲が、いまAIの学びの是非を問う証拠として法廷に並んだ。その一曲一曲に、あらためて値札がつけられる日が近いのかもしれない。





