2026/07/05
SPARKL

ネスプレッソら4社の幹部がカンヌで語った、AIが企業の創造性を変える活用の最前線

ネスプレッソら4社の幹部がカンヌで語った、AIが企業の創造性を変える活用の最前線

広告とクリエイティブの祭典として知られる南仏カンヌで、雑誌『TIME』が主催する対談企画「TIME100 Talks」のパネルが開かれた。テーマは、AIが企業の現場で創造性をどう変えているか。登壇したのは、コーヒーカプセルで知られるネスプレッソ、タバコ大手フィリップ・モリス、動画生成AIのスタートアップ、そしてデジタルコンサル大手という、まったく異なる4つの世界の経営陣だった。

議論は「AIが人間の仕事を奪う」という定番の不安から、静かにずれていった。

AIが企業の創造性を変える、その「活用事例」の現在地

4社の経営陣が示したのは、AIが人間の創造性を置き換える構図ではなかった。全員が口をそろえたのは、AIを「増幅装置」として人間と組ませる使い方だ。

ネスプレッソUSAでマーケティングとサステナビリティを統括するジェシカ・パデュラは、こう語った。「AIは、優秀な人をさらに優秀にする。私はずっとそう言ってきた」。同社の狙いは、消費者体験を底上げすることにある。データを見ると、顧客はコーヒーをゆっくり、意図を持って味わいたがっている。ならばアプリを通じて、豆の産地や淹れ方をもっと深く伝えればいい。AIはそのための道具だという。

フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)で最高グローバル成長責任者を務めるステファノ・ヴォルペッティは、より踏み込んだ。「人間とAIの二つが組めば、力の乗数になる。習慣を大規模に変えるパーソナライズにAIを使うなら、これ以上ない組み合わせだ」。単にAIに適応するのではなく、人間がAIと一緒に「特別な何か」を作る。それが彼の言う協働の姿だった。パネルの詳細はFast Companyが報じている

「仕事を奪うのはAIではなく、AIを使う人」

雇用への不安に、動画生成AI企業ルマAIの共同創業者兼CEOアミット・ジェインは、一つの警句で答えた。「人が職を失うとすれば、その相手はAIを使う別の人間だ」。

これは、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOら技術界のリーダーが繰り返してきた主張の反響でもある。AIそのものではなく、AIを使いこなす同僚に置いていかれる、という構図だ。

この「置いていかれる速さ」を、デジタルコンサル大手ピュブリシス・サピエントのCEOニゲル・ヴァズが具体的に描いた。若手が入社する頃には、学んできたことのほとんどが陳腐化している。しかも半年ごとに、また陳腐化する。だから必要なのは、学び直す力と同じだけ「学んだことを捨てる力」だという。知識の量ではなく、更新の速度が問われる時代になった。

AIが埋められない一点、消費者は「対話」からは学べない

AI礼賛が続くパネルで、パデュラだけが一つのギャップを指摘した。「消費者のことは、AIと話していては学べない」。

データは大量に得られる。顧客が何をして、どこに時間を使うかもわかる。だが、実際の人間どうしの接触には、それとは違う何かがあるという。彼女がここで言いたかったのは、直感や共感といった人間の資質こそ、AI時代にいっそう際立つということだ。俊敏さ、弱さを見せる勇気、そして深く考える力。創造性の鍵を開けるのは、結局そこだと彼女は見ていた。

ジェインも、クリエイティブ職の人々がAIをめぐって「感情的」になりがちだと認めている。独自性や本物らしさが脅かされる、という不安だ。「変化は必ず来る。だから人に投資して、備えさせる必要がある」と彼は言う。

カンヌの結論は、意外にも「好奇心」だった

議論の締めくくりに浮かび上がったのは、テクノロジーの話ではなく、人間の姿勢の話だった。

ヴォルペッティは、AIネイティブな若手に「はるかに高い好奇心」と「失敗を受け入れて実験する覚悟」を見ていた。好奇心とリスクを取る姿勢こそ、創造性を解き放つ要素だという。「AIは増幅装置だ。好奇心があり、顧客を知っていれば、AIによる大規模なパーソナライズが初めて可能になる」。

ヴァズは、映画のヒーローにたとえた。「私はよくアイアンマンの比喩を使う。スーツにも、人にも投資して、両方を重ねてこそスーパーヒーローになる。片方だけでは、同じ加速は得られない」。

スーツだけでも、人だけでもヒーローにはならない。増幅装置としてのAIと、消費者と向き合い続ける人間の好奇心を重ねて初めて加速が生まれる、というカンヌの示唆は、AI時代のオフィスにも静かに効いてくるのかもしれない。