米ノースカロライナ州のトリニティ・モラヴィアン教会は4年で1,631件の医療債務を買い取り、帳消しにした。米国で病気による借金を抱える人は約1億人にのぼる。
なぜ教会が「他人の医療費」を帳消しにできるのか
米国では、支払われないまま残った医療費の債権が、回収業者に安値で売られていく。その債権を第三者が買い取って消せば、もとの患者の借金はそのまま帳消しになる。ノースカロライナ州ウィンストンセーラムのトリニティ・モラヴィアン教会は、この仕組みに目をつけた。
築114年、かつての紡績工場街に立つこの教会で、牧師のジョン・ジャックマンが医療費肩代わりのキャンペーンを提案したのは4年前だった。反応は驚くほど早かったという。「これまでで一番ラクな資金集めだった。何をやっているか話すだけで、みんな小切手を書いてくれる」と彼は語る。
こうしたキャンペーンが成立するのは、回収の見込みが薄い債権が二束三文で取引されるからだ。まとめ買いをすれば、わずかな寄付でも何十倍もの借金を消せるとされる。教会が動かした金額は決して巨額ではない。それでも救われる人の数は、桁違いに膨らむ。
政治で割れる地域が、医療費では手を組む
医療費の重荷は、支持政党や信条とは無関係に人を襲う。だからこそ、立場のまるで違う住民が同じ募金箱の前に並ぶ。
ジャックマンはこの教会を「紫の会衆」と呼ぶ。保守もリベラルも入り混じり、移民や奨学金の話題では意見が真っ二つに割れる。それでも医療費だけは別だった。信徒のキャサリン・コーは大手病院グループの経理で働き、自らを保守と認める。「毎分毎秒、誰かが借金に落ちていくのを見ています。私たちは全員、たった一枚の医療請求書で破産と隣り合わせなのです」と話す。
一方、建設現場で働いてきたテリー・メイブは現政権に強く反発する立場だが、医療費の怖さは身にしみている。「仕事の切れ目に病気になると、あっという間に5,000ドル、1万ドルの請求だ。払えない、どうしようとなる」。信用組合で債権回収をしていたポール・スルーダーも、大半の人は払いたくても払えなかったと振り返り、「この仕組みはどこか壊れている」と言い切る。
米国で医療費関連の負債を抱える人は、約1億人にのぼる。非営利団体アンダュー・メディカル・デットの最近の調査では、共和党支持者・民主党支持者ともに75%以上が「医療費のために賃金を差し押さえるべきではない」と答えた。分断ばかりが語られる国で、この一点だけは驚くほど広い共通の地盤があった。
「燃やす」儀式と、まだ終わらない募金
キャンペーンの締めくくりに、教会は帳消しにした債務の一覧を火にくべた。参加者にとって、それは借金の消滅を目で確かめる瞬間になった。
今年に入ってキャンペーンが一区切りすると、ジャックマンは特別な儀式を開いた。信徒の前で、彼は長い名前のリストを掲げる。「この歓喜の日に、神が私たちの負債を赦したように、私たちも隣人の負債を赦します」。リストに並ぶ一つひとつの名前は、教会が買い取って消した誰かの借金だった。ライターの炎が黄色く揺れ、紙に記された1,631件が燃えていく。かたわらでは、スカウト団の子どもたちが紙吹雪のポッパーを構えていた。
オルガンと歌声が祝っていたのは、借金の消滅だけではなかったのかもしれない。ともに手を動かすという、その一点そのものだったようにも見える。教会の地下でスパゲッティを囲んだあと、信徒のシンシア・テッシュはこう語った。「これだけ分断と怒りがあふれています。私たちは互いに気にかけ合う必要がある。他人のことを考え始めれば、きっと何かが変わります」。
教会はすでに、次のキャンペーンの準備を始めている。燃える名簿の灰と、子どもたちが放つ紙吹雪。その先で、割れていたはずの地域が少しずつ縫い合わされていくのかもしれない。





