2026/07/01
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米科学者の75%が国外流出を検討。トランプ後の研究費削減で英国が受け皿に

米科学者の75%が国外流出を検討。トランプ後の研究費削減で英国が受け皿に

2025年3月の調査では、米国の科学者1,600人以上の75%が国外への移住を検討していると答えた。科学誌『Nature』の分析でも、同年第1四半期の海外求職の応募は前年同期より約3割増えている。

なぜ米国の科学者が英国へ移住するのか

きっかけは連邦政府による研究費の削減だ。助成金の停止や遅延、NIH(国立衛生研究所)やNSF(国立科学財団)の再編が相次ぎ、大学での研究環境が一気に不透明になった。

トランプ政権2期目が2025年に始まって以降、大学の助成金は次々と打ち切られ、人種やジェンダーに関する研究は槍玉に挙げられた。政権はこれを「ゴールドスタンダードの科学を取り戻し、官僚主義を減らして無駄を省くための措置だ」と説明する。だが現場の研究者にとっては、将来設計そのものが揺らぐ話だった。

カリフォルニア大学アーバイン校の認知科学者ミーガン・ピーターズは、脳が不確実性をどう処理するかを研究してきた。終身在職権(テニュア)を持つ立場でありながら、米公共ラジオNPRの報道によれば「新政権が高等教育も大学の研究も重んじていないことは、すぐにはっきりした」と語る。彼女はこの夏、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)へ移る。

受け皿を整えた英国と欧州

英国と欧州は、この機を逃さず米国の頭脳を招き入れている。英王立協会や欧州研究会議は、米国などの科学者を対象にした助成金を新設し、就労ビザの取得もしやすくした。

UCL実験心理学部の教授スティーブ・フレミングは、ちょうど募集が出ようとしていたポストにピーターズを誘った。「彼女にうまく合うのではないかと、そこから話が始まった」と振り返る。移籍は給与の目減りを意味したが、ピーターズにとってロンドンとUCLの学術的な魅力はそれを上回った。航空宇宙エンジニアであるパートナーの仕事が見つかりやすい土地でもあった。

決め手のひとつは、資金の間口の広さだった。「ここアメリカでは得られない機会が、確かにある」とピーターズは言う。フレミングによれば、この夏UCLに着任する米国出身の研究者は彼女だけではない。テニュアを手放して移ってくる「著名な人材」が、あと2人加わるという。

頭脳の流れが逆転するとき

かつて世界中から科学者を集めた米国から、いま逆に人材が流れ出している。特に脳・神経科学の分野で、名の知れた研究者の移籍が続く。

カリフォルニア大学デービス校で30年以上を過ごした神経科学者の夫妻、タマラ・スワブとロン・マングンも、英バーミンガム大学へ移る。スワブは言語の神経科学を、マングンは注意の神経メカニズムを研究してきた。オランダで博士号を取ったスワブは、キャリアの初期に欧州が女性科学者に開いていた扉が狭かったからこそ、開かれた米国を選んだ経緯を持つ。

「アメリカの科学の何が好きだったかというと、その開かれ方であり、人々が機会を見つけて努力する姿だった。そこには楽観があった」とスワブは語る。その楽観が、いまはむしろ英国や欧州の科学者の側に感じられるという。

不確実性を研究してきた科学者たちが、自らの将来という最大の不確実性に、ロンドンやバーミンガムで答えを探し始めている。かつてアメリカにあった楽観は、いま静かに大西洋を渡ろうとしているのかもしれない。