FDAの科学者は、7月に審査される7種のペプチドすべてについて「指定を変更するだけの十分な証拠はない」と結論づけた。しかも審査するパネルには、ペプチド業界と利害関係を持つメンバーが含まれている。
ペプチドとは何か、なぜGLP-1と同じ仲間なのか
ペプチドはアミノ酸がいくつか連なった物質で、タンパク質より小さく、私たちの体内でも自然につくられている。実は大ヒット中の痩身薬GLP-1も、人工的に合成されたペプチドの一種だ。
つまりペプチドそのものは、怪しげな新物質ではない。問題は、いまSNSで人気を集めているタイプのペプチド注射だ。BPC-157、TB-500、MOTs-Cといった名前が、インフルエンサーや一部の医師の口から次々と飛び出す。筋肉の回復を早め、代謝を上げ、ケガの治りを助ける。皮下注射で手軽に打てる「健康の最適化ツール」として、じわじわ広がってきた。
だが、GLP-1が数万人規模の臨床試験を経て承認されたのに対し、これら流行のペプチドは大規模で厳密なヒト試験をほとんど通っていない。同じ「ペプチド」という看板でも、証拠の裏付けはまるで違う。
FDAが指摘したペプチドの安全性と「証拠不足」
FDA(米食品医薬品局)の科学者たちの結論は明快だった。7月に審査される7種のペプチドについて、指定を変更するだけの十分な証拠はない、というものだ。安全性への懸念と、データの一貫性の欠如を彼らは指摘している。
米公共放送NPRが報じたところによれば、FDAは審査を約3週間後に控えた6月末、これらのペプチドをめぐる懸念をまとめた文書を公開した。効果を裏付ける良質な証拠も、安全性を保証するデータも乏しい、という内容だ。
歴史を振り返ると、これらのペプチドは2023年にバイデン政権下で規制対象に入った。調剤薬局が製造できないカテゴリーへと移された。その結果、使いたい人々は海外の怪しい業者から、非正規の流通経路(グレーマーケット)で入手するようになった。規制が需要を消すのではなく、地下へ潜らせただけだったとも言える。
なぜ厚生長官は規制緩和を急ぐのか
推進しているのは、米厚生長官ロバート・ケネディ・ジュニアだ。彼はペプチドを自ら使っていると公言し、調剤薬局が再びこれらを提供できるようFDAに求めている。FDAは厚生省の監督下にあり、長官の意向は無視できない重みを持つ。
ここで引っかかるのが、審査パネルの顔ぶれだ。7月23日と24日の2日間で7種のペプチドを審査するメンバーには、ペプチド業界と利害関係を持つ人物が含まれる。注射用ペプチドを販売する企業で働く者もいるという。潰瘍性大腸炎、傷の治癒、肥満、片頭痛といった具体的な用途について、彼らが証拠をどう評価するのか。現場の科学者が突きつけた「証拠不足」の判定と、真っ向からぶつかる可能性がある。
そのペプチド、いま打つべきか
専門家の答えは、そろって慎重だ。裏付けとなるデータが揃うまで勧められない、というのが現時点の共通見解である。
「ペプチドについて患者から質問されない日はありません」と語るのは、南カリフォルニア大学でスポーツ医学部門を率いる整形外科医アレクサンダー・ウェーバーだ。自らも証拠のレビューを発表した彼の答えは、いつも決まっている。「使用を支持するだけのデータが、まだ足りないのです」。
期待が悪いわけではない。ペプチドは実際に有望な研究分野で、GLP-1のように科学が追いついて花開く可能性は十分ある。ただ、いま流通している注射が、その水準の裏付けを持っているかは別の話だ。7月の審査は、ふくらむ期待と乏しい証拠のあいだのギャップを埋める、最初の一歩になるかもしれない。





