2026/07/21
SPARKL

元OpenAI幹部のThinking Machines、初AIモデル「Inkling」でアンソロピックの知性ブランドに割って入る

元OpenAI幹部のThinking Machines、初AIモデル「Inkling」でアンソロピックの知性ブランドに割って入る

Thinking Machinesが2025年に公開した初のAIモデル「Inkling(インクリング)」は9,750億パラメータを持ち、そのうち410億が実際に動く。最強を狙わず、ユーザーごとの作り込みで勝負するモデルだ。

Thinking MachinesのAIモデル「Inkling」は何が新しいのか

性能で首位を取るのではなく、カスタマイズ性で差をつける設計だ。使う人が自分の好みにモデルを合わせられる点に、この会社は賭けている。

Inklingは、元OpenAIの幹部だったミラ・ムラティが2025年に立ち上げたAIラボの最初の製品にあたる。昨秋公開した微調整プラットフォーム「Tinker(ティンカー)」で細かく調整でき、モデルの中核部分が公開された「オープンウェイト」型でもある。同社自身、Inklingが市場で最も高性能なモデルではないと認めている。

面白いのは操作画面だ。「ニューヨーカー誌の記事のように書け」「謎かけだけで答えよ」といった具合に、応答の文体や構成を指示できる。思考にどれだけの手間とトークンを割くかも、利用者が自分で決められるという。平均的な万人向けではなく、一人ひとりの像に合わせて形を変えるAI。それが同社が米ビジネス誌『Fast Company』の取材で示した売り文句だった。

なぜAIスタートアップは「知性」をブランドにするのか

消費者が求めているのは、思考を肩代わりするAIではなく、思考を広げる「知的な超能力」だからだ。だからこそ各社は、賢さそのものをブランドの核に据え始めている。

先を行くのはアンソロピック(Anthropic)だ。広告では「難しい問いにこそ希望がある」「Claudeと考え続けよう」と語りかけ、モデル名はソネットや俳句といった文学の形式にちなむ。CEOのダリオ・アモデイは、練り込んだブログ記事を重ねて思想家として自らを位置づけてきた。AIは人間の認知を肩代わりするのではなく、押し広げるべきだ。それが、同社が一貫して発してきたメッセージである。

Thinking Machinesの言葉づかいは、この路線と驚くほど重なる。同社はブログで、組織の力はそこで働く人々の専門知から生まれると説いた。そして「その知識を一枚のスナップショットとして抜き取り、平均的な既製品で置き換えるAI」ではなく、「人と共に働き、その固有の知を育てるAI」を掲げてみせた。知性を競争軸に置くブランド戦略が、業界の共通言語になりつつあるようだ。

「思考を奪わないAI」は次の競争軸になるか

AIを売る側は、人間の考える力を代替する製品では遠くまで行けないと見始めている。頂点の性能よりも、誰の思考に寄り添うかが問われる局面に入った。

生成AIが登場した当初の売り文句は、面倒な作業をまるごと任せられることだった。だが競争が成熟するにつれ、利用者が本当に欲しがるのは、自分の頭を消す道具ではなく、鋭くしてくれる道具だと各社は気づきつつある。置き換えから拡張へ。売り方の重心が静かに移っている。

Inklingがまだ最強でないことを、Thinking Machines自身が認めている点も示唆的だ。性能の頂点ではなく「誰の思考に寄り添うか」で選ばれる時代が来るなら、後発のスタートアップにも勝ち筋は残る。文学の名を借りた先行者と、謎かけで応じる新顔が、同じ「考え続けるためのAI」という一点で交わろうとしているのかもしれない。