2026/07/17
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がん格差研究者の93%が連邦資金削減の影響、米国で臨床試験が途中で止まる

がん格差研究者の93%が連邦資金削減の影響、米国で臨床試験が途中で止まる

がんの格差を研究する専門家の93%が、連邦政府の政策変更で仕事に影響を受けたと答えた。米国がん研究協会(AACR)が122人を対象に行った調査の結果だ。2025年前半だけで、国立がん研究所の助成金181件・総額3億1,700万ドル超が打ち切られた。

なぜ同じがんでも死亡率に差が出るのか

住む場所や人種によって、がんの死にやすさは大きく変わる。米国では農村部の住民が全体で18%、黒人女性が乳がんで35%、白人女性より死亡率が高い。

がんは誰にでも起こりうる病だ。だが「かかったあと、どれだけ生き延びられるか」は、本人の努力や運だけで決まるわけではない。検診に手が届くか、専門病院が近くにあるか、治療を続けられる経済的な余裕があるか。こうした条件の差が、そのまま生存率の差になって表れる。その実態をNPRが報じている

この溝を扱う分野は「がん格差(cancer disparities)研究」と呼ばれる。日本ではなじみが薄いが、要は「なぜ特定の人たちが、同じ病でより多く亡くなるのか」を突き止め、その差を縮める手立てを探る学問だ。過去数十年、この地道な研究は多くの格差を実際に縮めてきた。喫煙率の高い地域への介入、検診が届きにくい層へのアウトリーチ。派手さはないが、確実に命を救ってきた領域である。

がん格差研究への連邦資金削減で、現場では何が起きたか

調査対象の研究者122人のうち93%が政策変更の影響を受け、78%が新たな助成金に応募できず、59%は進行中の研究が中断したと答えた。

AACRの調査は、教授・科学者・学生を含むこの分野の研究者122人に現状を尋ねたものだ。浮かび上がったのは、分野全体の失速だった。報告書委員会の委員長を務めるマリアナ・スターン(南カリフォルニア大学ケック医学校の予防医学・泌尿器科教授)は、被害の生々しさをこう語る。「多くの臨床試験が途中で止まりました。つまり、それまで治療を受けていた患者が、資金が切れたせいで突然その治療を受けられなくなったのです」

失われた資金の多くは、国立衛生研究所(NIH)から来ていた。回答者の59%がそう答えている。米医学誌『JAMA Oncology(ジャマ・オンコロジー)』が伝えたデータによれば、2025年前半のおよそ半年で、NIH傘下の国立がん研究所(NCI)は181件の助成金を打ち切った。総額は3億1,700万ドルを超え、その多くが格差研究だった。きっかけは2025年1月、「過激で無駄な」多様性研究の停止を求める大統領令だったと報じられている

53年続いた登録事業への「前例なき」削減

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のがん登録事業は53年間NCIの資金を受けてきたが、過去に例のない規模の削減を迫られ、人員削減に追い込まれている。

スカーレット・リン・ゴメス(同校の疫学・生物統計学教授)が率いるグレーター・ベイエリアがん登録事業は、53年にわたってNCIの支援を受けてきた。地域のがん発生データを長期に集める、まさに格差研究の土台となる仕事だ。「これほどの規模の削減は、私の登録事業がNCIの資金を得てきた歴史のなかで、まったく前例がありません。桁違いです」とゴメスは言う。

影響は数字ではなく、人に及ぶ。約50人を抱える彼女の研究室は、昨年すでに7人ほどの常勤スタッフを手放した。今年もさらに5、6人を手放すことになりそうだという。「夜も眠れません。研究室の一人ひとりに何が起きるかを考えると」。米国医科大学協会(AAMC)のヘザー・ピアースは、この一連の打ち切りを「新政権の優先課題を進めないというだけの理由による」大量解除と表現し、その規模はかつてないと指摘する。

止まった研究の先に、それでも残る足場

打ち切られた助成金の多くは訴訟を経ていったん復活しており、NIH自身も格差研究を「優先課題」と位置づけている。

完全に道が閉ざされたわけではない。いくつもの裁判を経て、打ち切られたNIH助成金の多くは復活した。NIHは声明で「NCIはがん格差研究を優先課題と位置づけており、この分野の進歩が予防・早期発見から治療・生存者ケアまで、すべての患者に恩恵をもたらす知見を生むと認識している」と述べる。格差を縮める研究は、特定の誰かのためだけのものではない。ある集団でうまくいった検診や治療は、めぐりめぐって全員の医療を底上げする。

ペンシルベニアのフォックスチェイスがんセンター長ロバート・ウィンは、この分野をアクセルにたとえた。「格差研究のアクセルから足を離せば、専門病院の近くにいない農村部やその他の人々のなかから、うまくいかない人がもっと増えるでしょう」。逆に言えば、足を戻せば道はまだ続く。53年分のデータと、眠れぬ夜を越えてでも研究室を守ろうとする人々がいるかぎり、その差を測り、縮める試みが途絶えることはないのかもしれない。