JPモルガンは複数の部門で人員を30〜40%削減した。AIによる生産性向上が理由で、対象社員の多くは行内の別部署に配置転換されたという。
なぜJPモルガンはAIで人員を削ったのか
特定の部門でAIが業務を自動化し、人手が余ったためだ。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは決算説明会で、いくつかの部署で人員を30〜40%減らしたと明かした。
きっかけは、「AIは御社のような企業をもっと筋肉質にできるのか」という投資家からの質問だった。質問は、米フィンテック企業ブロックが物議を呼んだ大幅な人員削減に踏み切ったことを引き合いに出していた。これに対しダイモンは「特定の部門では、たしかに巨大な効率化が起きると見ている」と応じた。すでにAIによる生産性向上が一部の職を消したことを認めたうえで、Fast Companyが報じたその発言は、これまでの慎重な物言いから一歩踏み込んだものだった。
世界最大級の金融機関のトップが、自社の業務のどこがAIで置き換わったのかを具体的な数字で語る。それ自体が、この技術が「実験」から「実装」の段階に移ったことを示している。
「大規模失業は起きない」からの方向転換
ダイモンはこれまで、AIは生産性を上げるが雇用を大きく減らすことはない、と繰り返してきた。今回の発言は、その立場からの明確な後退だ。
この2月の時点では、社員はAIツールで時間を節約しているものの、それが人員数の目立った変化にはつながっていない、と語っていた。ところが数カ月前のブルームバーグとのインタビューでは、AIはいずれ採用のあり方を変え、銀行員の数を減らすだろうと認めている。「先々、うちの仕事は減ると思う。AI人材はもっと採り、特定分野の銀行員は減らす。その分、彼らの生産性は上がる」。
強気の予言と慎重な留保のあいだで、ダイモンの言葉は少しずつ動いてきた。今回、初めてそこに「3〜4割」という具体的な数字が乗った。抽象的な見通しが、実際の人事の話に変わった瞬間だった。
効率化は経費削減を意味しない? 浮上した「AIトークン費」
AIで人を減らしても、会社の支出が劇的に減るとは限らない。ダイモンは、AIへの傾倒が経費を大きく圧縮するとまでは言い切らなかった。
むしろ新たな出費が顔を出している。CFOのジェレミー・バーナムは、AIの「トークン費」に目を光らせる必要があると述べた。トークン費とは、AIモデルを動かすたびに発生する利用料のことだ。現時点では「取るに足らない額」だが、下半期には膨らむと見ている。AI利用が増えるほどこのコストがせり上がる問題は、いま多くの企業が頭を悩ませているものでもある。
つまり構図はこうだ。人件費が浮く一方で、AIを回すための費用がじわじわ積み上がる。効率化がそのまま利益に直結するかどうかは、まだ帳簿の上では決着していない。
削減された社員はどこへ行ったのか
削減対象となった社員の多くは、行内の別部署で新たな仕事を提示されたという。ダイモンは「社員を再教育する準備を進めている」と語り、単純な放出ではないことを強調した。
この姿勢は、テック業界の揺れとも重なる。OpenAI(オープンAI)のサム・アルトマンCEOは5月、AIの雇用への影響を過大評価していたかもしれないと認め、「間違っていたなら大歓迎だ。今ごろもっと初級のホワイトカラー職が消えていると思っていた」と述べた。ホワイトカラーの初級職の半分が失われうると警告していたアンソロピックのダリオ・アモデイCEOも、自分は「破滅の預言者」になりたかったわけではなく、人々に備える時間を与えたかったのだと軌道修正している。
一方でテック各社の大量解雇は続く。先週マイクロソフトは数千人規模の削減を発表し、その多くがXbox部門に及んだ。だが人事責任者は「今回なくなった職はAIに置き換えられたわけではない」と社内メモで念を押した。同じメモで「AIが仕事の進め方を変えているのは事実だ。だからこそ学び続け、新しい技能を磨き続ける必要がある」とも書いている。削るのか、鍛え直すのか。「社員を再教育する」というダイモンの言葉が、決算説明会に並んだ数字と同じだけの重みを持つのかどうかは、下半期の帳簿に表れはじめるのかもしれない。





