2026/07/14
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ニシキヘビの心臓は食後に肥大し1カ月で縮む。この仕組みが心臓病治療のカギを握る

ニシキヘビの心臓は食後に肥大し1カ月で縮む。この仕組みが心臓病治療のカギを握る

ニシキヘビは食事のたびに代謝を最大40倍まで引き上げ、心臓を肥大させて大量の血液と酸素を送り出す。だが消化を終える約1カ月後、その心臓は何事もなかったかのように元のサイズへ縮む。

14カ月絶食しても、筋肉は落ちなかった

一匹のニシキヘビが、14カ月ものあいだ何も口にしていなかった。それでも痩せ衰えるどころか、体はバネのように張り詰めていたという。

米コロラド大学ボルダー校の分子生物学者スキップ・マースが引き取ったボールパイソン「アグラピナ」の話だ。ラットを与えられた瞬間、アグラピナは素早く襲いかかって締め上げ、一気に丸のみにした。ヒトなら1年以上の絶食で筋肉は激しく落ちる。ところがニシキヘビは、長い飢えのあいだも筋肉の張りを保ったままでいられる。

「極限的な環境で生きるニシキヘビが、人間にも応用できる秘密を隠しているのは理にかなっています」と語るのは、遺伝学者のレスリー・レインワンドだ。彼女は約20年前、ニシキヘビ特有の生理を医療に翻訳するというアイデアを最初に思いついた人物で、現在は同校バイオフロンティア研究所の科学責任者を務める。マースにとってニシキヘビは「進化がすでに解いてしまった答え」であり、そこから着想を得たいのだと話す。

食後の代謝は、競走馬が全力疾走するのと同じ

ニシキヘビは食事の直後、代謝を通常の10〜40倍にまで跳ね上げる。流れ込む大量のタンパク質と脂肪を分解し、栄養を残らず吸い取るためだ。

「ニシキヘビは食事のあと、獲物の大きさに応じて代謝を10倍から40倍に引き上げます」と話すのは、ネブラスカ大学医療センター助教で、かつてレインワンドの研究室にいたトミー・マーティンである。これは「ケンタッキーダービーに出る競走馬が、厩舎で休んでいるときと、トラックを全力で駆けるときほどの差」だと、同校の分子生物学者ジャック・グーゲルは表現する。しかもニシキヘビは、その高代謝を消化のあいだ何日も維持し続けるという。

この猛烈な代謝を支えるため、体内では大がかりな改築が始まる。臓器そのものが大きくなり、なかでも心臓は、より多くの血液と酸素を送り出せるよう肥大する。食べるという行為が、そのまま体の作り替えを意味している。

なぜニシキヘビの心臓は、肥大しても再び縮むのか

食事のたびに膨らんだニシキヘビの心臓は、消化を終える約1カ月後には元のサイズへ戻る。人間の心臓は一度大きくなると硬く縮まなくなり、命に関わる点が決定的に違う。

人間の心臓も、年単位でなら大きくなることがある。ただしそれが高血圧や心筋梗塞によるものだと、心臓は肥大したまま硬直し、時に致命的な結果を招く。「どれだけ完璧な食事をして毎日運動していても、心臓病になる人はいます」とグーゲルは言う。ところがニシキヘビの心臓は、食後1カ月ほどで静かに元へ戻ってしまう。

研究チームが突き止めたいのは、その切り替えの号令だ。「心臓に『大きくなれ』と伝える信号は何か。そして『元の大きさに戻れ』と伝える信号は何か」とグーゲルは問う。この答えは、人間の厄介な心臓肥大を止め、あるいは押し戻す方法へのヒントになりうる。実際、レインワンドの研究室では、若手研究者ユーシャオ・タンがニシキヘビの心筋細胞そのものを解析している。詳しくは米公共ラジオNPRの報道が伝えている。

ヘビの生態が、人間の薬になる日

ニシキヘビが心臓を自在に縮められる仕組みを解読できれば、人間の心臓病を止めるだけでなく、悪化した肥大を押し戻す治療につながる可能性がある。

レインワンドがこの発想に取り憑かれてから、すでに20年が過ぎた。恐ろしげな捕食者と医学の最前線という、一見かけ離れた二つの世界は、いま静かに近づきつつあるようだ。絶食に耐え、食後にふくらんだ心臓を静かに畳んでみせる一匹のヘビ。進化が数千万年かけて書き上げた答えを、人間の医学がようやく読み解きはじめているのかもしれない。