2026/08/23
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CRISPRで雄マウスのY染色体を除去。山梨大が遺伝的に同一の「雌クローン」を作成

CRISPRで雄マウスのY染色体を除去。山梨大が遺伝的に同一の「雌クローン」を作成

山梨大学などのチームは、CRISPRで雄マウスの胚からY染色体を除去し、雄と遺伝的にほぼ同一の雌クローンをつくり出した。クローン羊ドリーの誕生から約30年、この技術はついに性別そのものを書き換える段階に入っている。

なぜ雄マウスから「雌クローン」が生まれたのか

受精後の胚から、雄をつくるY染色体をCRISPR(クリスパー)で切り取ったからだ。残る遺伝情報は雄由来のまま、性別だけが雌へと変わる。

哺乳類の雄はXY、雌はXXという性染色体を持つ。研究チームは雄マウスの胚に手を加え、CRISPRでY染色体そのものを取り除いた。生まれた個体は、Y染色体を欠くこと以外は元の雄と遺伝的に同じ、いわば性別だけを反転させたクローンだった。

米技術誌MIT Technology Reviewによると、研究を主導した山梨大学の生殖生物学者は、この結果を「少しSFのようだった」と振り返ったという。動物のクローン技術に、性別を自在に切り替えるという新しい一手が加わった。

ドリーから約30年、クローンは何に使われてきたか

家畜の改良と、死んだペットの「復活」だ。優れた形質を持つ個体を、そっくりそのまま複製できる。

1996年に生まれたクローン羊ドリーは、成体の細胞から複製に成功した最初の哺乳類だった。ある羊の乳腺細胞から核を取り出し、核を抜いた卵子に移し替えて生まれた個体は、細胞の提供者と遺伝的に同一だった。人類は何千年も選抜交配で家畜を「望ましい方向」へ導いてきたが、クローンはその複製をほぼ一発で実現する。

ペットのクローンも、すでに現実になっている。数万ドルを払えば、企業が飼い主のペットの細胞から生きたクローンをつくる。バーブラ・ストライサンドやトム・ブレイディが亡きペットを複製したことは広く知られる。ただ、複製には別の動物の卵子と、妊娠を担う代理母が欠かせない。医療上も環境上も必要のないこの手続きに、ある生命倫理学者は「犬という下層階級の搾取だ」と厳しく批判している。

「脳を持たない人間クローン」は臓器工場になるのか

技術的にはヒトのクローンも可能で、あるスタートアップは移植用に「脳のない人間クローン」という構想さえ掲げている。

知られている限り、ヒトのクローンをつくった者はまだいない。しかし発想を弄ぶ動きはある。その起業家が描くのは、脳を持たない代わりに、将来置き換えが必要になるあらゆる臓器を備えたヒトのクローンだ。MIT Technology Reviewの記者は今年3月にこの構想を紹介した際、記事を読み返しながら昼食の手が止まったと書いている。

ここで問われるのが、クローンと臓器提供をめぐる倫理の境界だ。誰の卵子を使い、誰が代理母を担うのか。脳がなければ「人」ではないのか。マウスで性別を反転させる技術と、ヒトの臓器を育てる構想は、地続きの地平の上にある。だからこそ、実験室で線を引く議論が先に必要になる。

絶滅危惧種を凍らせて待つ「冷凍動物園」

クローンの最も正当な使い道は、種の保存にある。数少ない個体しか残っていない状況でこそ、その価値は際立つ。

科学者たちは何十年も前から動物の組織を凍らせて保存してきた。サンディエゴ動物園の「冷凍動物園」には、1,300種を超える細胞が低温で眠っている。こうした試料からクロアシイタチやモウコノウマといった絶滅寸前の動物がすでに複製された。2009年にはスペインのチームが、10年前に凍結した皮膚細胞から絶滅した野生ヤギ、ピレネーアイベックスを復活させている。439個の胚から生まれた雌はたった1頭で、肺の欠陥のため数分後に息を引き取った。人類が知る限り、二度絶滅した唯一の動物だ。

米バイオ企業コロッサル・バイオサイエンシズは、古い、時に太古のDNAを使ってフクロオオカミやケナガマンモスの復活を狙う。今回のY染色体を除去する技術も、雄しか残っていない種に雌をもたらす道を開くかもしれない。凍らされた1,300種の細胞と、性別さえ書き換える新しい手法が出会うとき、二度と戻らないはずだった命が、もう一度こちらへ歩み出そうとしているのかもしれない。