2026/08/23
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AIが発見した新薬でも、特許の発明者は「人間5人」。AI創薬の発明者帰属問題が浮上する

AIが発見した新薬でも、特許の発明者は「人間5人」。AI創薬の発明者帰属問題が浮上する

AI創薬を手がけるインシリコ・メディシンは、肺線維症の新薬候補をAIが「発見した」と発表した。だが特許の発明者欄に記されたのは、CEOを含む人間5人。AIの名前は、そこに一度も出てこない。

AIが見つけた薬の功績は、誰のものか

AI創薬の発明者帰属問題は、この一枚の特許から始まる。インシリコ・メディシンは新薬候補をAIが発見したと誇りながら、特許ではAIに一切触れず、CEOを含む人間5人を発明者として登録した。

インシリコ・メディシンは、AIを使って人間なら思いつかない薬のアイデアを高速で生み出す企業群の先頭を走る。いまやAIモデルは、ChatGPTが礼状を書くのと変わらない手軽さで、薬になりうる分子の原子配置を設計してみせる。同社は肺線維症の新薬候補について、自社の生成AIが「発見した」とプレスリリースで高らかにうたった。

ところが、その化学構造を守る特許を出願する番になると、AIの存在は書類から消えた。発明者として名を連ねたのは、アレックス・ジャバロンコフCEOを含む5人の人間だけだった。この落差こそ、MITテクノロジーレビューが報じた知的財産法の奇妙な綻びを映している。

発端は「賢い弁当箱」の特許裁判

この矛盾の根っこには、2022年の米連邦控訴裁の判断がある。裁判所は「発明者とは個人、つまり人間である」と述べ、機械は発明者になれないと結論づけた。

争いの舞台になったのは、意外にも一つの食品容器だった。ロサンゼルスの法律事務所に所属する弁護士ライアン・アボットが、DABUS(ダバス)と名づけられたAIを「発明者」として登録しようと、無報酬の試験訴訟を起こした。DABUSが設計したのは、表面の幾何学模様のおかげで熱をよく伝え、重ねやすいという改良型の容器だ。設計に人間は関与していないのだから、発明者はAIであるべきだ、というのがアボットの主張だった。

この裁判は、AIに法的権利があるのか、ひらめきの本質とは何かといった哲学的な問いを呼び起こすはずだった。だがワシントンの控訴裁は2022年、そうした「形而上学的な議論」は的外れだと退けた。米国の法律は発明者を「個人」と定め、その言葉が素直に指すのは生身の人間だ。機械は人ではない以上、発明者にはなれない。裁判はそう幕を閉じた。「人間の発明者がいなければ、発明も特許も存在しない」。特許弁護士のサラ・コーマンは、そう言い切る。

政権が変わると、米特許庁の答えも変わった

米特許商標庁はいま、AIの利用に「見て見ぬふり」を決め込んでいる。バイデン政権下でまとめられた指針は、政権交代とともに撤回された。

米特許庁自身、「AIというシステムは、他の道具と同じく、人間が行えば発明行為とみなされうる働きをしうる」と認めている。だからこそ焦点は、AIそのものではなく手続きへと移る。前政権は、どんな場合に人間が共同発明者と言えるかを申請者が判断できるよう手引きを公表した。だが方針は転換され、いまや米特許庁はAIを電卓と同じ単なる道具と位置づける。わざわざ言及する必要すらない、という扱いだ。

似た構図は著作権の世界でも起きている。米著作権局はAIが生成した画像や文章への著作権登録を拒み、その道具を使う映画業界などから懸念の声が上がる。アボットが心配するのは、AIの成果を保護の枠外に置けば、新薬開発の勢いをそぐことだ。知的財産の制度は本来、発明を促すためにある。米憲法第1条も、「科学と有用な技芸の進歩を促す」ために、発明者へ一定期間の独占権を与えると明記している。

「ボタンを押した人」は発明者になれるのか

争点は「AIは発明者か」から、「人間が発明者と呼べるだけ貢献したか」へと移りつつある。ボタンを押しただけの人を発明者と呼べるのかが、次の火種になる。

ジャバロンコフCEOは、少なくとも当面はどの企業も人間を工程に残し、記録を丁寧に残すはずだと語る。インシリコでも、薬を実際に合成し、変種をつくり、動物で試すのは人間の化学者だ。「特許に名を刻まれるのは、その人物です」。仮に実験まで完全に自動化しても、「予算を出し、最後にボタンを押す誰かは必ず残る」と彼は付け加える。

では、ボタンを押すことは発明にあたるのか。アボットは、それこそ今後の裁判が答えを出す問いだと考えている。彼が挙げた例えは鋭い。「もし私がClaude(クロード)に『がんを治せ』と頼んで、本当に治せたとしたら?それを私の発明だと主張するのは、ふさわしくないと思う」。弁当箱の幾何学模様からがんの治療薬まで、AIが答えを差し出す時代に、「発明者」という古い言葉だけが、まだ人間の手のなかに残されている。