2026/06/09
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グレートニコバル島開発でインドが90億ドル投資。100万本の森と先住民族1,000人が消える

グレートニコバル島開発でインドが90億ドル投資。100万本の森と先住民族1,000人が消える

グレートニコバル島の開発計画は総事業費90億ドル、マンハッタンの2倍の面積をカバーする。完成後は年間100万人の観光客を受け入れる計画で、現在の島の人口の約100倍に相当する規模だ。

グレートニコバル島の開発計画はなぜ今、動き出したのか

インド洋の要衝に位置するこの島が、中国の海洋進出に対抗するインドの戦略拠点として急浮上したためだ。ヒンドゥー民族主義政党・インド人民党(BJP)は「中国を潰す戦略的要衝」と公言し、巨大港湾・空港・軍事施設を一体で整備する方針を打ち出している。

グレートニコバル島はアンダマン・ニコバル諸島の最南端に位置する。インド本土からは飛行機を乗り継ぎ、さらに30時間のフェリーに乗ってやっとたどり着く遠隔地で、近年まで外界とほぼ遮断されてきた。南シナ海の入口に近く、中国が港湾整備を進めるミャンマーやスリランカとも近い位置にある。完成後は民間・軍用の空港、コンテナ船対応の大型港湾、発電所、そして高層ビルやテーマパークを備えた新都市が島に建ち並ぶ計画だ。

さらに、近年のホルムズ海峡封鎖がインドの海上輸送路を脅かしたことで、代替ルート確保の観点からも同島の重要性が高まった。インド政府は「国家安全保障と防衛力の強化、地域の経済発展の加速」を事業目的に掲げている。

100万本の木と絶滅危惧種に何が起きるか

開発区域では100万本の木が伐採される見込みで、絶滅危惧の2種が生息地を直撃される。

一つはオサガメだ。現存する最大のウミガメで、甲羅の長さが最大2メートルに達し、外洋を数千キロ回遊する。グレートニコバル島の浜辺は主要な産卵地のひとつとして知られ、建設区域と重なる。もう一つはニコバルハト。鮮やかな緑とオレンジの羽毛を持ち、17世紀に絶滅したドードーの現存する最も近い近縁種だ。固有種のニコバルスコップスフクロウも生息しており、現地で取材した生物学者は「彼らは『お前はここにいていい存在ではない』という目でこちらを見る」と語る。

NPR(米公共ラジオ放送)の現地リポートで、20年以上この諸島を研究してきた学者マニシュ・チャンディは「これは惨事を招く公開招待状だ」と述べた。「住民が主な受益者ではない。金を生むことだけを前進とみなすモデルだ」と批判し、生物多様性と先住民族コミュニティへの複合的な脅威を訴える。

「影響はない」と言い切れるか。先住民族ショムペン族の現実

インドの環境大臣は「先住民族の集落を脅かさず、種の生息も損なわない」と述べたが、研究者たちの見方は大きく異なる。

島の先住民族の中心は約1,000人のショムペン族だ。世界でも有数の孤絶した人々とされ、外界との接触をほぼ持たず、何世紀にもわたって森の中で自給自足の生活を続けてきた。文明接触による急激な人口流入は感染症リスクを高め、土地との関係を断ち切ることで文化そのものが崩壊する危険がある。類似の被害はアンダマン諸島をはじめ、世界各地の先住民族開発事例で繰り返されてきた歴史がある。

これはグレートニコバル島だけの問題ではない。インドでは近年、アラビア海のマングローブ林を切り開く沿岸道路やヒマラヤのダム建設など、自然を犠牲にした大型インフラが各地で進む。熱波・氷河洪水・記録的豪雨が増加するなか、自然保護の声が高まっているのはその反動でもある。

声を上げる研究者たちが、計画を変える可能性

昨年の市民批判を受け、インドの環境大臣が公式見解を示したこと自体、社会からの圧力が機能している証左でもある。

環境研究者・ジャーナリスト・国際NGOが記録と発信を続けることで、計画の修正や条件交渉を迫る余地は残っている。インドでは気候変動の深刻化とともに自然保護への関心が急速に高まっており、グレートニコバル島の問題がその議論の焦点になりつつある。

ニコバルスコップスフクロウを見つけた生物学者は、その鋭い眼差しに「お前はここにいていい存在ではない」と感じたという。孤島の生き物たちが人間の侵入に向けるその視線は、記録され続け、問いかけを続ける。地政学の論理が自然と文化を上回るかどうかは、これからの10年で問われることになる。