2014年のアイスバケツチャレンジは、米ALS協会だけで約1億1,500万ドル(当時のレートで約120億円)の寄付を集めた。この資金は、ALSの発症に関わる遺伝子の特定など複数の研究成果につながったとされる。
なぜ今、アイスバケツチャレンジが復活したのか
かつてNFLで活躍したランニングバック(ボールを持って走る攻撃の中心ポジション)、クリス・ジョンソンが自らALSと診断されたことを公表し、フットボール界のスターたちが氷水を頭からかぶる募金運動を再開させた。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、体を動かす神経細胞が少しずつ壊れていく神経難病だ。手足の力が抜け、やがて話すことも飲み込むことも難しくなる。原因の多くは解明されておらず、現在も根本的な治療法は見つかっていない。だからこそ、第一線で戦ってきたアスリートが自分の身に起きたこととして病名を口にした衝撃は大きかった。
氷水を頭からかぶり、次の挑戦者を指名して寄付を募る。この一見奇妙な運動が最初に世界を席巻したのは2014年の夏だった。SNSのタイムラインは、バケツを手にした有名人や一般人の動画であふれた。ワシントン・ポストは、当時の熱狂に匹敵する「寄付の追い風」を研究者たちが再び期待していると報じている。
あの氷水募金は、この10年でALS研究を進めたのか
2014年に集まった巨額の寄付は、新たなALS関連遺伝子の発見や、いくつかの治療薬の登場を後押ししたとされる。ただし、病そのものを止める根治療法には今も届いていない。
数字を見れば、あの夏がいかに異例だったかがわかる。米ALS協会には、わずか数週間で約1億1,500万ドルが流れ込んだ。ふだんの年間寄付額を大きく超える金額であり、団体はその多くを研究資金に振り向けた。この資金は、ALSの発症に関わる遺伝子の一つを特定する国際研究などを支えたと報じられている。
治療の現場も、10年前とは景色が違う。この間に複数の新しい治療薬が承認され、一部の患者では病の進行をわずかに遅らせられるようになった。とはいえ、多くの薬は進行を「遅らせる」段階にとどまり、失われた神経を取り戻すには至っていない。研究者たちが「まだ道半ばだ」と語るのは、この現実があるからだ。
それでも、10年前には手がかりすら乏しかった病に、複数の入り口が見えてきたことは確かだ。
再び集まる氷水が、次の10年に託すもの
一過性のブームで終わらせないために、研究者たちは持続的な寄付と関心を求めている。
2014年の熱狂には、後に「バイラルな運動は一瞬で冷める」という批判もついて回った。実際、翌年以降に同じ規模の寄付が続いたわけではない。だが、あの夏に集まった資金がなければ生まれなかった発見があるのも事実だ。今回の復活を、研究者たちが単なる懐かしさの再演ではなく「次の一歩の燃料」として見ているのは、そのためだろう。
氷水をかぶるという行為そのものは、病を治しはしない。それでも、遠い難病を「自分の隣にあるもの」として感じさせる力を、この運動は10年前に証明してみせた。元アスリートの告白から再び広がりはじめた氷の波紋が、次の10年でどこまで届くのか。それは、バケツを持った一人ひとりの手に、静かに委ねられているのかもしれない。





