2026/05/21
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iF DESIGN AWARD 2万1,000件が示す、サステナビリティは「差別化」から「前提」へ

iF DESIGN AWARD 2万1,000件が示す、サステナビリティは「差別化」から「前提」へ

サステナビリティが「前提」になった年

iF DESIGN AWARD は毎年93カテゴリで1万件超の応募を受け付ける、世界最大級のデザイン賞だ。アップルやコカ・コーラのような大企業からスタートアップ、独立系スタジオまでが参加する。Fast Companyに寄稿したiF Designのサステナビリティ責任者リサ・グラルネクは、この2年分の審査データから3つのシグナルを読み取ったという。

最も顕著なのは「成熟のシグナル」だ。5年前なら「リサイクル素材を使っている」だけで高い評価を得られた。2026年の受賞作はそれでは足りない。耐久性、修理可能性、システム思考——これらがコンセプト段階から組み込まれていなければ、評価の土俵にすら上がれなくなっている。

背景には審査基準の変化もある。iF DESIGN AWARDでは現在、総合スコアの20%を社会的・環境的配慮が占める。だが、グラルネクによれば変化の本質は配点だけでは説明できない。「優れたデザインは人と地球とビジネスにとっても良いものだ」という認識が、業界全体に広がっているようだ。

象徴的な例が、大阪万博2025の統一建築構造「グランドリング」だろう。会場全域にまたがる巨大構造物でありながら、最初から解体・再利用を前提に設計された。CLT(直交集成板)と伝統的な貫工法を組み合わせた構造は、持続可能性が「仕様書の追加項目」ではなく「仕様書そのもの」だったことを物語る。

「見えないサステナビリティ」という設計革命

2つ目のシグナルは、さらに興味深い。最も高く評価されたデザインは、サステナビリティを「売り」にしていなかった。性能で勝負しながら、結果として持続可能だった。

代表例が、世界最大のファスナーメーカーYKKが開発したジッパー修理システムだ。世界のファスナーの約半数を製造するYKKが、ユーザー自身で欠けた「歯」を補修できる仕組みを作った。エコ製品としてではなく、「より優れたファスナー体験」として設計されている。

この転換の意味は大きい。これまでサステナブルな選択は、消費者に追加コストや不便を強いるものだった。「環境に良いから我慢する」という構図だ。しかしYKKの修理システムでは、ユーザーは持続可能性を意識する必要がない。単に「長く使える良い製品」を手にするだけで、廃棄物削減が自動的に実現する。

グラルネクはこれを「見えないサステナビリティ」と呼ぶ。製品のロジックそのものに持続可能性が織り込まれ、消費者の意識に依存しない。これが2026年のデザイン賞で最も評価される設計思想になりつつある。

異分野チームが「解ける問い」に変える

3つ目のシグナルは、デザインの「誰が」に関わる。優れたサステナブルデザインの多くは、単独の天才デザイナーの産物ではなく、分野横断チームから生まれていた。

ハーバード大学の ChoLab がわかりやすい。このデバイスは、脆弱なコミュニティで迅速なコレラ検査を可能にする。高コストで時間のかかる遠隔地の検査機関に頼る代わりに、地域の保健従事者が現場で水質診断を行える。開発には公衆衛生研究者、エンジニア、コミュニティ住民、自治体が関わった。単一分野のトップダウンでは、そもそも「何を解決すべきか」すら定義できなかっただろう。

持続可能性はほぼ常にシステムの問題であり、システムの問題は単一の業界や機能では解けない。iF DESIGN AWARDの受賞作を見渡すと、エンジニア、サプライチェーンの専門家、行動科学者、エンドユーザーが設計プロセスに参加しているケースが目立つ。

70カ国から届いた2万1,000件超の応募は水晶玉ではないが、グローバルデザインのリアルタイム診断としては最も信頼できるデータの一つだろう。そしてその診断が伝えるのは、サステナビリティが「志」から「期待値」に変わったという事実だ。次の問いは明快で、持続可能性の制約をどう使えば、より良いデザインを生み出せるか——その答えは、次の応募フォルダの中に、すでに届いているかもしれない。