45州が教師不足を報告する現場
米国では、2024-25年度に45の州が特別支援教育の教師不足を報告した。連邦法により、障害のある生徒一人ひとりに「個別教育計画(IEP)」と呼ばれる詳細な文書を作成・維持する義務がある。対象となる生徒は全米で800万人を超える。
IEPには生徒の現在の学力や発達状況に基づく年間目標、必要なサービスや支援内容が細かく記載される。この書類作成が通常の授業準備に上乗せされるため、多くの教師が長時間労働を強いられてきた。カリフォルニア州ベイポイントのリバービュー中学校で10年間教壇に立つメアリー・アセブは、かつて朝6時半に出勤し、暗くなってから書類を抱えて帰宅する日々を送っていたという。
低所得層の生徒が多い学校ほど離職率が高い傾向にあり、人手不足と業務過多の悪循環が深刻化している。
57%がAIを導入——特別支援教育のAI活用が加速
この状況を変えつつあるのがAIだ。非営利団体「民主主義・テクノロジーセンター(CDT)」の最新調査によると、2024-25年度に特別支援教育の教師の57%がIEP作成にAIを活用していた。前年度は39%だったから、わずか1年で18ポイントも跳ね上がった計算になる。
アセブもこの2年間、AIを使って書類作成を効率化してきた一人だ。「もうあの頃の生活には戻らない」と彼女は笑う。浮いた時間を生徒との対話に充てられるようになったという。
ただしCDTは、この調査結果とあわせてプライバシーや法的・倫理的リスクについても警告を発している。生徒の障害や学習状況といった機微な個人情報をAIに入力することへの懸念は根強い。
研究が示す「品質は落ちない」
リスクが指摘される一方で、AI活用がIEPの質を高めるという研究結果も出てきた。バージニア大学(UVA)とセントラルフロリダ大学(UCF)の共同研究では、AIを適切に活用した場合、教師が単独で作成したIEPと同等かそれ以上の品質が得られることが確認された。
UCFの研究者オリビア・コールマンは、「障害のある生徒が教師と過ごす時間が増えるほど、教育面でも生活面でも良い結果につながることが多い」とNPRの取材で語っている。書類作成の時間短縮は、単なる業務効率化ではなく、教育の質そのものに直結するという見方だ。
UVAのダニエル・ウォーターフィールドも、IEPの本質は「生徒の現在地と、1年後に到達してほしい地点を結ぶ道筋」だと強調する。AIはその道筋を描く下書きを支援するツールであり、最終的な判断は常に教師が担う。
書類から教室へ——教師の時間が戻りはじめた
アセブの教室では、生徒たちがそれぞれ異なる方法で学んでいる。独力で課題に取り組む生徒、ペアで話し合う生徒、ヘッドフォンで集中する生徒、音声認識技術を使う生徒。こうした個別対応こそがIEPの目的であり、紙の上の計画を実践に移すには、教師が生徒のそばにいる時間が欠かせない。
「7年生の初めには読めなかった生徒が、今は読めるようになった」とアセブは話す。AIが書類を引き受けることで、教師が本来の仕事——生徒と向き合い、成長を見守ること——に集中できる環境が、少しずつ広がりつつあるようだ。

