2026/07/13
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トロント大が9,000件の求人を分析。『天才募集』が優秀なクリエイティブ人材を遠ざける

トロント大が9,000件の求人を分析。『天才募集』が優秀なクリエイティブ人材を遠ざける

採用市場でクリエイティブなスキルがAIを上回った理由

生成AIが定型業務を次々と飲み込むなか、人間にしか出せない創造性の価値が相対的に跳ね上がったためだ。米国の採用担当者の過半数が、クリエイティブな社員はAIに置き換えにくいと見ている。

求人・キャリア情報サイトのResume.org(レジュメ・オルグ)が米国の採用担当者991人に聞いた調査では、創造的なスキルが技術的なスキルの価値を上回るという結果が出た。57%が「クリエイティブな社員のほうが、技術職の社員よりもAIに代替されにくい」と回答している。

この傾向は一社の調査にとどまらない。世界経済フォーラム(WEF)が毎年まとめる『仕事の未来レポート2025(Future of Jobs Report 2025)』でも、創造的思考は雇用主の最優先課題の一つに挙がった。その重要度は、リーダーシップ能力に迫るほどだったという。皮肉なのは、これほど渇望されているスキルほど、企業がうまく採用できていないことである。

求人票にあふれる「天才」という言葉

企業はいま、創造性をまるで一部の天才だけが生まれつき持つ資質であるかのように書いている。トロント大学の研究チームが、その言葉づかいの偏りを数字で突き止めた。

進行中の研究で、研究者たちは9,000件を超える求人と、米国・カナダの現役採用担当者への調査を分析した。すると、クリエイティブディレクター、グラフィックデザイナー、マーケティング担当といった創造的な職種では、「天才(genius)」「先見的(visionary)」「唯一無二(unique)」といった言葉が突出して多く使われていた。求人票は、「好奇心のある」「観察力の鋭い」「実験的な」といった言葉より、こうした天才系の言葉を2倍以上の頻度で載せていたのだ。

担当者本人に書かせても結果は変わらなかった。別の実験で採用担当者300人に創造職の求人票を作ってもらったところ、多くが「クリエイティブな天才を募集」と書いた。「多様な情報源から学び続け、新しい経験に開かれた、好奇心と柔軟さのある人」といった描写を選ぶ人は少数派だった。詳しい調査結果は、米ビジネスメディア『Fast Company(ファスト・カンパニー)』の記事にまとまっている。

「天才募集」が女性と本物の逸材を遠ざける

「天才」という言葉は、応募者を絞り込むどころか、企業がもっとも欲しい人材を取り逃がしている。

研究チームは、実際に同じ職に応募した求職者2,000人を対象にオンライン実験を行った。半分には「探検者(explorer)」を思わせる言葉づかいの求人票を、もう半分には「天才」系の求人票を見せた。結果、男女ともに探検者型の求人に応募する確率が高かった。

背景には、過去の研究の蓄積がある。「brilliance(卓越)」や「genius(天才)」といった言葉は、男性的な職場環境を連想させるため、女性の応募を不釣り合いに遠ざけることがわかっている。逆に探検者型の言葉は、応募者の属性の多様性を広げ、しかも創造性テストで高得点を出した人からの応募を増やした。天才を求めているつもりの企業が、実は最上位のクリエイティブ人材を押し出してしまっているのである。

「才能」ではなく「行動」でクリエイティブを語る

解決策は、驚くほどシンプルだ。創造性を「一部の人が生まれ持つもの」ではなく、「誰もが日々取り組む行為」として書き直せばいい。

トロント大学の研究者たちは、ハーバード・ビジネス・レビューの報告のなかで具体的な言葉を挙げている。「実験」「試行錯誤」「探索」「協働」「好奇心」「フィードバック」といった語を使い、逆に「天才」「内なる才能」「聡明」「天賦の才」のような、その対極を連想させる語は避けるべきだという。

「創造性を、その人が“である”ものではなく、その人が“する”ものとして描き直せば、組織はより多くの応募者ではなく、正しい応募者を惹きつけられる」と研究者は書いている。次に求人票を開くとき、書き換えるべきは待遇欄ではないのかもしれない。集めたいのが本当にイノベーションを前へ進める好奇心旺盛な探検者たちなら、変えるべきは冒頭のたった一語だろう。