アビ・ローブといえば、ハーバード大学の天文学者でありながら「太陽系に飛来した物体は宇宙人の探査機だ」と唱えてきたことで知られる。そのローブが、ホワイトハウスの新設した「UAP科学諮問委員会」を率いることになった。米メディアThe Verge が報じた人事は、科学界にざわめきを広げている。
アビ・ローブが率いるUAP科学諮問委員会は、ホワイトハウス・国防総省・国家情報長官室・FBIなど5つの政府機関が共同で設立した。委員には物理学者に加え、病理学者や哲学者、懐疑派雑誌の創刊者まで名を連ねる。
ホワイトハウスが横断で立ち上げた「UAP諮問委員会」とは
米政府の複数機関が共同でつくった科学助言組織で、UAP(未確認異常現象)の正体を科学的に解明することを目的としている。かつてUFO(未確認飛行物体)と呼ばれてきた現象は、近年の米政府文書では中立的な「UAP」という呼称に置き換えられた。
この委員会は、政策判断を担う「UAP統治委員会(Governing Board)」に対して、科学的なレポートや助言を提供する役割を持つ。設立に名を連ねたのは、ホワイトハウス、国防総省、国家情報長官室、FBI(米連邦捜査局)、そして「情報コミュニティ」。安全保障の中枢が顔をそろえた布陣であり、政府がこのテーマを一過性の話題ではなく、検証すべき対象として扱おうとしていることがうかがえる。
そのトップに、なぜよりによってローブなのか。ここに今回の人事の逆説がある。
なぜアビ・ローブは科学界で「異端」とされてきたのか
ハーバードでの長い経歴が権威を与える一方、近年は「宇宙人の証拠を見つけた」と繰り返し主張し、多くの研究者からペテン師扱いされてきたためだ。
ローブが世間の注目を集めたきっかけは、2017年に太陽系外から飛来した恒星間天体「オウムアムア」だった。多くの天文学者がこれを彗星に近い自然の天体とみなすなか、ローブは「宇宙人が送り込んだ探査機の可能性がある」と唱えた。さらに、海底で見つかった小さな金属球を「宇宙船の残骸」と主張し、テレビ番組の常連となっていく。
こうした発信は少なくとも2015年ごろから続いており、科学者仲間の評価は厳しい。The Verge によれば、科学界の多くはローブを「詐欺師」「変わり者」「金儲け主義者」とまで切り捨てているという。肩書きは超一流、しかし主張は場外乱闘。この落差が、彼をめぐる論争の核心にある。
「懐疑派」まで招いた布陣は何を狙うのか
委員会の顔ぶれは、ローブ一色ではない。物理学者だけでなく、病理学者、計算機科学者、哲学者、心理学者、さらには懐疑派雑誌『Skeptic(スケプティック)』の創刊発行人まで加わっている。
この多様さは、意図的なバランスとも読める。宇宙人説に前のめりな人物をトップに据えつつ、周囲を異分野の目と「そう簡単には信じない」懐疑の視点で固める。突飛な主張が独走しないよう、検証のブレーキを内側に組み込んだ設計とも受け取れる。UAPというテーマは、頭ごなしに否定すれば見落としを生み、無批判に信じれば科学から遠ざかる。その両極のあいだで、証拠だけを淡々と積み上げられるかが問われることになる。
オウムアムアを「宇宙人の探査機」と呼んだ天文学者と、それを疑い続けてきた懐疑派とが、同じテーブルに着く。この奇妙な同居が、長年もてあまされてきたUAPという謎に、初めて科学の物差しを当てる場になるのかもしれない。





