2026/07/13
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グーグルが量子エラー訂正に強化学習を導入。計算しながら自己調整しエラー補正力が2割向上

グーグルが量子エラー訂正に強化学習を導入。計算しながら自己調整しエラー補正力が2割向上

グーグルの新手法は、計算を止めずにエラー訂正の副産物だけで制御を再調整し、論理量子ビットのエラー検出・訂正能力を約20%高めた。強化学習が扱った制御パラメータは、最大で約4万個に及ぶ。

なぜ量子コンピュータは「使うほど狂う」のか

原因は、量子ビットを操る制御装置そのものが、動かすうちに少しずつ設定からずれていくためだ。グーグルなどが採用する超伝導方式では、この「ドリフト」が長い計算の大敵になる。

グーグルが使うのはトランズモン(transmon)と呼ばれる素子だ。超伝導の輪と共振器を組み合わせ、マイクロ波のパルスで操作する。厄介なのは、そのパルスを送り出す装置──冷却庫の外に置かれた古典コンピュータやマイクロ波源──が、使ううちに発熱などで初期設定から流れていく点である。

そもそも超伝導量子ビットは、一つひとつに微妙な個体差がある。そこで実際の計算に入る前に「較正(キャリブレーション)」を行う。制御用マイクロ波の周波数と強さをあれこれ変えて試し、最もエラーが少なくなる組み合わせを探して記録しておく作業だ。楽器の調律によく似ている。

問題は、この較正を計算の最中には行えないことにある。演奏を止めなければ調律できないのと同じで、これまでは装置がずれ始めたら計算をいったん止め、較正をやり直していた。だが暗号解読のような長く複雑な計算では、途中で手を止めるわけにいかない。

量子エラー訂正に強化学習をどう組み込んだのか

鍵は、エラー訂正のために集めているデータを、そのまま調整にも流用するという発想だ。較正のずれも、ほかのエラーと同じように「検出できる痕跡」を残すからである。

エラー訂正付きの量子ビットでは、データを保持する量子ビットとは別の一部を測定し、どこでエラーが起きたかを検出する。グーグルの研究チームは、較正の不備から生じるエラーもまた、ほかのエラーと区別なく「検出可能な痕跡(シンドローム)」を残すことに着目した。つまり同じ測定データから、ランダムなエラーと較正由来のエラーの両方を読み取れる理屈になる。

難しいのは、その二つをどう見分けるかだ。チームが持ち込んだ答えが強化学習──試行錯誤を重ね、報酬(ここではエラーの少なさ)が最大になる操作を自力で学ぶ機械学習──だった。システムは約1,000個ある制御パラメータをわずかに、しかも同時に揺さぶりながら、その影響がエラー検出の統計にどう表れるかを観察する。「制御空間を探るために、計算中にすべての制御パラメータへ小さく同時の摂動を加える」と論文は説明する。こうして得た手応えから、どのパラメータをどう動かせばエラーが減るかを推定し、訂正と並行して調整をかけ続けられる。

実際に、異なる方式(表面符号 surface code とカラー符号 color code)で動く二つの論理量子ビットで試したところ、この強化学習による調整を加えるだけで、エラーの検出・訂正能力は約20%高まった。止めずに、走りながら調律できたことになる。成果は世界的な科学誌『Nature(ネイチャー)』に掲載され、科学技術系メディア『Ars Technica(アルステクニカ)』がその要点を解説している

リアルタイムで「走りながら調律する」段階へ

この方式を本番で回し続けるには、有効な調整を絶えず試し直す必要がある。グーグルはより大きな論理量子ビットで、約4万個ものパラメータをリアルタイムに操る実証まで踏み込んだ。

限界もある。この調整が効くのは、ドリフトがシステムを学習時の状態からそう遠ざけない範囲に限られる。大きくずれてしまうと、ある状態で有効だった補正が別の状態では役に立たない。そこで必要になるのが、有効な手を絶えず試し直す仕組みだ。

ただし計算の途中で、制御設定を手当たり次第に振るわけにはいかない。試している間は、どうしても最適とは言えないエラー訂正で走ることになる。ここにあるのが、探索と活用のトレードオフだ。少しばかり質を落として試し続ける代償が、ドリフトによるもっと大きな崩れを防ぐ利益に見合うのか。シミュレーションは、ドリフトが十分にゆっくりなら割に合うことを示した。そして大きなエラー訂正量子ビットで、約4万個のパラメータをリアルタイムに操れることまで実証してみせた。

もっとも、これは今すぐ役立つ技術ではない。現在の量子コンピュータは短く単純な計算しかこなせず、ドリフトを気に病むほど長くは動かせないからだ。それでも、いずれ必ず立ちはだかると分かっている壁を、先回りして乗り越えられると示した意味は小さくない。

暗号を破るほどの長い計算がまだ手の届かない今、エラーの痕跡を頼りに走りながら自分を調律する量子プロセッサは、来るべき日のためにそっと用意された保険なのかもしれない。