40年間変わらない警告文
米国の酒類ボトルに貼られている警告ラベルは、1980年代後半から一度も更新されていない。内容は「妊娠中の飲酒」と「飲酒運転」への注意喚起、そしてアルコールが「健康上の問題を引き起こす可能性がある」という漠然とした一文だ。
スタンフォード大学の研究者アンナ・グラモンによれば、ほとんどの消費者はこの警告を素通りしているという。問題は、40年間で蓄積された医学的知見にラベルがまったく追いついていないことだろう。アルコールはたばこ・肥満に次ぐ「予防可能ながんの原因」第3位であり、乳がん、大腸がん、口腔がんを含む7種類のがんリスクを高めることが確認されている。にもかかわらず、NPRが報じた新研究によると、大半の米国人はこの関連性を知らない。
「がん」の一語が持つ力
グラモンらの研究チームは、具体的な疾患名を盛り込んだ8種類の新しい警告ラベルを作成した。がん、肝臓病、認知症、高血圧——飲酒との因果関係が立証されている疾患を明記したものだ。
1,000人以上の米国成人を対象に新旧のラベルを比較させたところ、疾患名を含む新ラベルは、リスク認知と飲酒削減意欲の両面で現行ラベルを明確に上回った。「健康上の問題を引き起こす可能性がある」では人は動かないが、「がんのリスクが高まる」と書けば行動が変わる。具体性が人の判断を左右することを、行動科学は繰り返し示してきた。
連邦政府と州の温度差
研究成果を政策に反映する道のりは平坦ではない。2025年初頭に退任した公衆衛生局長官ヴィヴェク・マーシーは、在任最後の仕事として酒類ラベルへのがんリスク警告の義務化を求める報告書を発表した。2025年夏には20以上の消費者・公衆衛生団体がトランプ政権にがん警告の追加を請願している。
だが連邦政府はむしろ逆方向に動いた。トランプ政権はアルコールの健康被害に関する主要報告書を撤回し、最新の食事ガイドラインからは1日あたりの飲酒量の具体的な上限を削除している。ガイドラインの文言は「健康のために飲酒量を減らしましょう」だけだ。蒸留酒評議会は「業界は既存のラベル法を遵守している」と述べるにとどまった。
アラスカから始まるラベル改革
連邦が動かないなら州が先行する——米国の公衆衛生政策ではたびたび見られるパターンだ。アラスカ州はすでに、酒類小売店の販売時点でがんリスクの警告を表示する法案を可決した。
たばこのパッケージに肺がんの警告写真が載るまでにも数十年を要した。アルコールとがんの関係が広く認知されるまでの道のりも短くはないだろう。だが、ラベルの文言を一行変えるだけで人の意識が動くことを、この研究は1,000人分のデータで裏づけている。40年間変わらなかった酒ラベルの文言が、アラスカの小売店から少しずつ書き換わろうとしているようだ。

