2026/06/04
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アレン研究所が4億ドルの脳科学計画を始動。遺伝子治療でアルツハイマーに挑む

アレン研究所が4億ドルの脳科学計画を始動。遺伝子治療でアルツハイマーに挑む

シアトルのアレン研究所が4億ドル(約600億円)規模の「Brain Healthアクセラレータ」を始動した。遺伝子治療を軸に、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、ハンチントン病などの治療法開発に乗り出す。

なぜ今「脳の修復」が現実味を帯びたのか

2013年に始まった米国の大型脳研究計画「BRAIN Initiative」が、予想をはるかに超える速度で脳の内部構造を解明したためだ。アレン研究所はその中心的な推進役として、「仕組みを知る」段階から「壊れたものを直す」段階への転換を主導している。

アレン研究所は、マイクロソフト共同創業者の故ポール・アレンが設立したシアトルの非営利研究機関だ。日本でいえば理化学研究所のような大規模基礎研究の拠点であり、脳の細胞カタログ作成など地道だが膨大なデータ収集で世界の脳科学を下支えしてきた。

BRAIN Initiativeを統括する米国立衛生研究所(NIH)上級研究員のジョン・ンガイは、米公共ラジオNPRの取材に対し「この10〜12年で到達した地点に、自分自身が衝撃を受けている」と語った。最新の遺伝子技術により、特定の遺伝子の活動を制御できるようになったことが転機だという。脳疾患に対する「精密治療」の扉が、ようやく開いた。

ハンチントン病の遺伝子を持つ科学者の賭け

遺伝子治療の最初の標的の一つがハンチントン病だ。この計画を率いる科学者の一人、ジェフ・キャロルは自らもハンチントン病の遺伝子を持っている。

キャロルは10代のとき、母親がハンチントン病と診断された。脳の神経細胞が徐々に壊れていく遺伝性の難病で、根本的な治療法はまだない。やがて自身も同じ遺伝子を持つと知った彼は、ワシントン大学で長年この病気を研究してきた。原因となる遺伝子はすでに特定されている。「悪いものがすべて一つの遺伝子から来るなら、その遺伝子を取り除けばいい」とキャロルは言う。

だが、大学の研究室では規模に限界があった。5〜6人、多くても10人のチームでは、必要なスケールの実験ができない。キャロルがアレン研究所のアクセラレータに合流したのは、数百人規模の研究体制が初めて可能になるからだ。

「18か月で亡くなった子どもが高校に通っている」

遺伝子治療はすでに一つの神経疾患で「不可能」を現実に変えている。脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療だ。

SMAは遺伝子の変異により脊髄の運動神経が死滅する希少疾患で、かつてはほぼすべての患児が生後18か月までに命を落とした。しかし遺伝子治療の登場により、その子どもたちが高校に通えるようになっている。「想像もできなかったことが変わりうる」とキャロルは語る

今回のアクセラレータには、アレン研究所の2億ドルに加え、アマゾン創業者一族のベゾス家が1億ドル、NIHやアマゾン・ウェブ・サービスなどが1億ドルを拠出した。世界中の病院・大学・研究センターが協力機関として名を連ねる。18か月の命だった子どもたちを高校に送り出した遺伝子治療が、今度は4億ドルと数百人の研究者を得て、脳の最深部に向かおうとしている。