2026/05/25
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五輪重量挙げ選手はバーベルの「しなり」を操る — 振動解析で仕組み判明

五輪重量挙げ選手はバーベルの「しなり」を操る — 振動解析で仕組み判明

バーベルを「宙に浮かせて叩く」実験

オリンピックの重量挙げは、スナッチ、クリーン、ジャークという3つの基本動作で構成される。選手が扱うバーベルは規格で重さ・直径・長さが統一されているが、エリート選手たちは「しなり」と呼ばれるバーベル固有の曲げと反発を体感し、それを加速に利用しているという。物理学では「曲げ振動(flexural bending)」と呼ばれるこの特性を、定量的に解明しようとする研究が米国音響学会のフィラデルフィア大会で発表された

研究を主導したのは、ペンシルベニア州立大学の大学院生ジョシュア・ラングロワだ。自身もストロングマン競技に出場する彼は、全米レベルで戦う重量挙げ選手の友人たちから「しゃがみ込んだとき、バーベルが跳ね返るタイミングを体で感じて上昇を加速させる」という話を聞き、その力学を数値化しようと考えた。

実験では、20キロの男子用バーベル4本の両端に50キロずつ荷重し、弾性バンドで吊るして宙に浮かせた。両端に加速度計を取り付け、小型ハンマーで各所を叩いて振動応答を測定する「モーダル解析」という手法だ。バーベルの種類ごと、荷重ごとに振動パターンを比較した。

重くすると周波数が「上がる」予想外

スリーブ(プレートを装着する外側の太い部分で、中心シャフトとは独立に回転する)を外した状態では、バーベルの基本振動は高い周波数を示した。スリーブを付けると端部の質量が増えるため振動数が下がる。ここまでは教科書どおりの結果だった。

予想外だったのは、高次の曲げモードの挙動だ。荷重を増やすと、通常なら振動数は下がるはずが、逆に上昇した。ラングロワによれば、重い荷重が両端を固定するように作用し、バーベルの実効的な波長が短くなるためだという。波の速度が一定なら、波長が短いほど周波数は高くなる。「バーベルごとに差が出るだろう」と彼は結論づけた。

この差はわずか1%程度だ。だが「エリートスポーツでは1%がすべてを変える」とラングロワは言う。トップクラスのゴルファーがスイング中にクラブのしなりを感じてボールの打ち方を調整するのと同様、重量挙げの超一流選手だけがこの微細な振動を利用できるとみられる。

「最高のバーベル」を決める要素はまだ謎が多い

規格で統一されていない部分——素材、表面処理、シャフトとスリーブの結合機構——が、しなりの質を左右する。素材はステンレス鋼やクロムメッキ鋼が主流で、ヤング率(剛性の指標)は鋼種によってかなり異なる。だがメーカーは製法を企業秘密にしており、正確な値は公開されていない。

結合機構にも種類がある。ベアリング式(内部に可動部品を持ち、回転が速い)、ブッシング式(可動部品なし)、その混合型、そして単なる鉄同士の接触だ。メーカーはブッシング式をゆっくりした高重量リフト向けに、ベアリング式を素早い動きが求められるオリンピック種目向けに推奨している。ラングロワの測定では、ベアリング式がもっとも良い結合を示し、高価なバーベルに採用される傾向があった。

次のステップは「本物の選手」での検証

ラングロワの研究は現時点ではバーベル単体の振動特性にとどまっている。次の段階として、男女のオリンピック重量挙げ選手にバーベルを実際に持ち上げてもらい、しなりをどう利用しているかをリアルタイムで計測する計画だという。

バーベルという一見シンプルな金属の棒に、素材科学、振動工学、スポーツバイオメカニクスが交差する。もし「しなりの最適解」が科学的に定義されれば、バーベル設計やトレーニング法に具体的なフィードバックをもたらす可能性がある。鋼の棒1本に隠された物理が、次の五輪で記録を塗り替える日が来るかもしれない。