150年で狩り尽くされた「青い獣」
ブルーバックは南アフリカに生息していたカモシカの一種だ。体高約120センチ、鼻先から尻尾まで約3メートル。長さ約56センチの後方に湾曲した鋭い角を持ち、最高時速約80キロで草原を駆けた。白い腹部と褐色の顔を除き、全身は独特の灰青色の毛皮に覆われていたという。
その美しい毛皮が、1650年ごろから南アフリカに入植したヨーロッパ人の標的となった。乱獲はわずか150年で一つの種を地上から消し去り、1800年ごろを最後に目撃例は途絶える。現在、ブルーバックの姿を伝えるのは、当時の博物学者が残したスケッチと科学博物館に保管されたわずかな標本だけだ。
そのブルーバックを蘇らせようとしているのが、米コロッサル・バイオサイエンシズである。同社は2025年春、1万年以上前に絶滅したダイアウルフをゲノム編集で復活させ、大きな注目を集めた。現在はケナガマンモスやタスマニアタイガー、ドードーの復活にも取り組んでおり、ブルーバックはその最新プロジェクトとして発表された。
1,800万の差異を「2万」に絞り込む
復活の鍵を握るのは、ブルーバックの近縁種であるローンアンテロープだ。両者のゲノムの違いは全体のわずか3%だが、その3%は1,800万カ所の塩基配列の差異に相当する。
研究チームはまず、スウェーデン自然史博物館から借り受けた組織標本をもとに、ブルーバックのゲノムを解読した。各塩基対を40回ずつ読む「40倍カバレッジ」と呼ばれる手法で、古い標本由来のDNAでも高い精度を確保するためだ。次に、1,800万カ所の差異から外見に直接関係しない領域——代謝や消化に関わる遺伝子、他の遺伝子の発現を調節するプロモーター領域など——を除外していく。コロッサルのゲノムエンジニア、スコット・バリッシュは「表現型にとって本当に重要な約2万カ所まで絞り込めた」と語る。
ダイアウルフでは14遺伝子・20カ所の編集で復活を実現した。2万という数字はまだ大きいが、1,800万からの圧縮は確かな前進だろう。復元の手順はダイアウルフと同じ原理に基づく。ローンアンテロープの細胞のDNAを編集し、核を取り出して除核した卵子に移植する。体外で胚まで育てた後、ローンアンテロープの代理母に移植し、約278日の妊娠期間を経てブルーバックの子が生まれる計算になる。
カモシカ保全への波及効果
このプロジェクトの意義は、一種の復活にとどまらないかもしれない。世界に生息する90種のカモシカのうち、55種で個体数が減少しており、29種は絶滅の危機に瀕している。最高科学責任者のベス・シャピロは「アフリカのカモシカは世界的な保全活動で長く見過ごされてきた」と指摘する。
研究の過程で、チームはローンアンテロープの成体細胞を再プログラムする技術も開発した。シャピロによれば「個体数が少ない種では一頭一頭が極めて重要になる」といい、この技術は繁殖の選択肢を広げる可能性がある。ブルーバックの復活を目指す過程で生まれた技術が、現存する絶滅危惧種の保全に転用できるなら、プロジェクトの価値は復活そのものを超えることになるだろう。
復活した動物の「居場所」をどう作るか
技術的な課題と並んで、復活した動物をどこでどう守るかという問いも残る。コロッサルが復活させた3頭のダイアウルフは現在、場所非公開の約810ヘクタールの囲い地で暮らしている。密猟者から守るための措置だ。
しかし、ブルーバックの最終目標は野生への放還にある。コロッサルは非営利団体アドバンスト・コンサベーション・ストラテジーズと連携し、適切な植生と気候を備え、遺伝的に維持可能な規模の群れが暮らせる土地を探している。候補国の規制当局との調整も進めており、放還先はかつての生息地だった南アフリカとは限らないという。
CEOのベン・ラムは「ブルーバックを復活させることは仕事の半分にすぎない。残り半分は、戻ってきた動物を世界が守れる体制を整えることだ」と語る。150年で一つの種を消し去った人間が、今度は遺伝子の力でそれを取り戻そうとしている。博物館の標本から読み取った1,800万の遺伝暗号が、いつかアフリカの草原を駆ける青い影となるかもしれない。

