2026/05/25
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ボーズが「引き算」で挑む、スマートスピーカーの再発明

ボーズが「引き算」で挑む、スマートスピーカーの再発明

「中身を全部引きはがした」

ボーズが新たに投入するLifestyle Ultraシリーズは、単独スピーカー(299ドル=約4.5万円)、サウンドバー(1,099ドル=約16.5万円)、サブウーファー(899ドル=約13.5万円)の3機種で構成される。サラウンドシステムとしての組み合わせも可能だ。

ラザ・ハイダー(ボーズ プレミアムコンシューマーオーディオ部門プレジデント)は「古い技術インフラの中身を完全に引きはがした。まったく新しいプラットフォームだ」と語る。名称は1990年代のボーズ初代Lifestyleシステムへのオマージュだという。数年をかけて構築したこの技術基盤の上に、今後さらに多くの製品を展開していく計画だ。

自社アプリを「手放す」という選択

Lifestyle Ultraの最大の特徴は、スマート機能の大半を他社に委ねる点にある。

従来のボーズ製品では自社アプリから音楽を操作できたが、新シリーズではそれを廃止した。音楽再生にはApple AirPlay、Google Cast、Spotify Connectを使う。マルチルーム再生も同様で、従来の独自規格「SimpleSync」は撤廃される。ボーズのアプリが担うのは、ステレオペアやサラウンドの初期設定だけだ。

音声アシスタントについても、独自開発ではなくAlexa+を採用し、将来的には他の音声エージェントにも対応する方針だという。

これはライバルのソノスとは正反対のアプローチである。ソノスは自社アプリとマルチルーム機能を重視し、独自の音声アシスタントまで構築してきた。統合度が高い分、音楽をスピーカー間で移動させるような操作がスムーズになる利点がある。

しかし2024年、ソノスがアプリの大幅刷新を急いだ結果、バグと機能退行が噴出した。売上は激減し、CEOの退任にまで発展している。

「囲い込み」が生んだスマートスピーカーの混沌

ボーズの戦略転換は、スマートスピーカー市場が抱える構造的な問題を浮き彫りにする。

現状、グーグルのNestスピーカーはGoogle Cast対応機としか連携しない。アマゾンのEchoも同様にAlexa機器だけでマルチルームを組む。ソノスはAirPlayに対応するものの、アマゾンやグーグルのマルチルームには参加できない。消費者は各エコシステムに閉じ込められ、異なるブランドのスピーカーを家中に散在させている。

ハイダーは「お客様は、自分が音楽を聴いている場所で音楽を聴きたいと言っている。SpotifyやAirPlayから別のアプリに移動したくないのだ」と説明する。プラットフォームに依存しない立ち位置は、この分断への一つの回答になりうる。

「次の10年」を持たせるためのモジュラー設計

懸念がないわけではない。ボーズは過去に、2013年に立ち上げたSoundTouchプラットフォームを今月終了させた。数百ドルを投じたユーザーからの反発は大きかった。当初はAirPlayやSpotify Connect対応まで打ち切る予定だったが、後に撤回している。

ハイダーはSoundTouchについて「ネット接続型の消費者向け製品としては十分長い期間だった」と認めつつ、新プラットフォームの耐久性に自信を見せる。モジュラー型の技術スタックを採用したことで、たとえばアマゾンがAlexaの仕様を変更しても、システム全体を作り直すことなく対応できる設計になっているという。

「引き算」によって柔軟性を手に入れるという逆説は、過剰な機能で肥大化したスマートスピーカー市場において、意外に堅実な生存戦略かもしれない。