数十億ドルの「頭脳投資」
Daily Brain Boost、Brain Drive、Brain guard+——米国のドラッグストアやオンラインショップには、認知機能の向上を謳うサプリメントが溢れている。ワシントン・ポストの報道によれば、米国人はこうした「脳サプリ」に年間数十億ドルを費やしているという。
かつて認知機能の衰えは、加齢や疾患の領域に属する問題だった。だが今や「自己を最適化する」という思想のもと、食事、運動、注射、錠剤、パウダー、グミに至るまで、脳のパフォーマンスは「チューニング可能なもの」として扱われるようになった。サプリメント産業はその潮流に乗り、急速に拡大を続ける。
マーケティングと科学のあいだ
問題は、華やかなパッケージの約束と科学的根拠とのあいだに大きな溝があることだ。「認知力アップ」「脳の若返り」といったフレーズは消費者の心をつかむが、臨床試験でその効果を厳密に検証したサプリメントはごくわずかしかない。
米国ではサプリメントは医薬品と異なり、販売前にFDA(食品医薬品局)の承認を得る必要がない。つまり「効く」と書いてあっても、その主張が大規模な臨床試験で裏付けられている保証はどこにもないということだ。消費者は事実上、マーケティングの言葉だけを頼りに購買判断を下している。
臨床試験が認めた「たった1つ」
ワシントン・ポストが取り上げた長寿研究の専門家によると、臨床試験で認知機能の老化を遅らせる効果が実際に確認されたサプリメントは1種類だけだという。その効果は、認知老化を約2年分遅らせるというものだった。
数百種類の製品が市場にひしめくなかで、科学的に裏付けられたものがたった1つ。この事実は、消費者がいかにエビデンスのない製品に資金を投じているかを如実に示している。もちろん、現在進行中の研究が将来的に新たな有効成分を見出す可能性はあるが、現時点での科学のコンセンサスは明快だ。
サプリの前にできること
長寿研究の分野では、サプリメントよりも基本的な生活習慣の方がはるかに強い認知保護効果を持つとされる。十分な睡眠、定期的な有酸素運動、地中海食に代表されるバランスの取れた食事、社会的なつながり——こうした要素は複数の大規模研究で認知機能の維持との関連が繰り返し示されてきた。
重要なのは、こうした対策が高額なサプリメントと違って、誰にでも今日から始められるという点だろう。脳の健康を守る最も確実な方法は、ボトルの中ではなく、日常の習慣のなかにあるのかもしれない。

