2026/05/25
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がん治療のCAR-T療法が自己免疫疾患に拡大、世界で数百件の治験が進む

がん治療のCAR-T療法が自己免疫疾患に拡大、世界で数百件の治験が進む

B細胞という共通の標的

CAR-T細胞療法の原理はシンプルだ。患者のT細胞を取り出し、特定の細胞を認識・攻撃する「キメラ抗原受容体(CAR)」の遺伝子を組み込んで体内に戻す。がん治療では、暴走したB細胞を標的にすることで白血病などの血液がんに長期寛解をもたらしてきた。

自己免疫疾患でも、B細胞が中心的な役割を果たす。本来は病原体に対する抗体を作るはずのB細胞が、正常な組織を攻撃する抗体を誤って産生してしまうのが、多くの自己免疫疾患の根本的なメカニズムだ。がんと同じ仕組みで問題のB細胞を排除できれば、免疫システムを発症前の状態にリセットできる可能性がある。Ars Technicaが掲載したKnowable Magazineの報道によると、この仮説に基づく臨床試験がいま世界中で加速しているという。

広がる対象疾患と残る課題

自己免疫疾患へのCAR-T応用を最初に切り拓いたのはドイツの研究チームだった。2021年、ループス(全身性エリテマトーデス)の女性患者にCAR-T療法を実施し、良好な結果を報告している。以来、多発性硬化症、グレーブス病、血管炎など、対象疾患は急速に拡大した。

コロラド大学アンシュッツ校の自己免疫神経学者アマンダ・ピケは、スティッフパーソン症候群という希少疾患でCAR-T療法を評価中だ。筋肉の硬直や痛みを伴う痙攣が特徴で、FDA承認の治療法は存在しない。バイオテクノロジー企業カイヴァーナがこの疾患でCAR-T臨床試験を開始したと知り、ピケは「完璧な機会」と語る。

ただし課題も多い。効果がどのくらい持続するかは未知数であり、長期的な副作用のリスクも十分に解明されていない。免疫システムの「リセット」が狙い通りに機能するかどうか、慎重な検証が求められる。

コストの壁を崩す「既製品型」

CAR-T療法のもう一つの障壁はコストだ。がん治療では1回の投与に数千万円規模の費用がかかることもある。患者ごとにT細胞を採取・加工・培養する工程が複雑で、時間もかかるためだ。

この壁を崩しうるのが、ドナーの細胞から作る「既製品型」(off-the-shelf)CAR-Tだろう。研究者の推計では、1人のドナーの血液から1,000人以上の患者分のCAR-T細胞を製造できるという。コストの大幅な削減だけでなく、必要なときにすぐ投与できる即時性も大きな利点になる。

最初の患者が杖を手放すまで

ネブラスカ州の看護師ヤン・ヤニッシュ=ハンツリックは、49歳で多発性硬化症と闘っていた。頻繁な転倒で孫を抱くこともままならず、車椅子生活に備えて広い家に引っ越すほどだ。既存の薬では改善が見られないため、ネブラスカ大学医療センターの臨床試験に最初の患者として志願した。

2025年6月に既製品型CAR-T療法を受けた彼女は、副作用なく経過観察を終える。数か月後、二重視を矯正する特殊メガネが不要になっていることに気づいた。杖なしで買い物に出かけ、毎日3時間必要だった昼寝もいらなくなったという。治療からおよそ1年、グランドキャニオンへの旅行を楽しめるまでに回復している。

右脚の脱力や足先のしびれは残り、「良くなるのか、このままなのか」と医師に尋ねるたび、「あなたが最初の患者だから、見守るしかない」と返されるという。TGセラピューティクスが主導するこの研究は2029年初頭に完了予定だ。多発性硬化症には遺伝的要素があるため、自身の孫世代が同じ病に苦しまないよう道を拓きたいという思いが、彼女を未知の治療に向かわせた。少なくともいま、その道を彼女は杖なしで歩いている。