2026/06/19
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中国のオープンソースAI戦略を元Hugging Face幹部が解説。無料公開でなぜ稼げるのか

中国のオープンソースAI戦略を元Hugging Face幹部が解説。無料公開でなぜ稼げるのか

DeepSeekの強化学習アルゴリズムは、いまや多くの米AI研究室の標準設定になりつつある。中国新興Zhipuの株価は、この間にすでに10倍へと跳ね上がった。

なぜ中国は無料でAIモデルを「設計図ごと」公開するのか

米国勢がコードを隠して稼ぐ一方、中国のAIラボは無料公開を「ブランド構築」と「協業」の手段と捉えているためだ。タダで配ることが、回り回って自分たちの利益につながる。

AI開発者の巨大コミュニティ、Hugging Face(ハギングフェイス)でアジア太平洋地域のエコシステム責任者を務めたティエジェン・ワンは、この数年、中国ラボのオープンソース戦略を間近で見てきた。彼がRest of Worldのオンラインイベントで語ったところによると、競争の最前線にいるはずのエンジニアたちの頭にあるのは、意外にも「協業」の発想だという。

「多くの中国ラボのオープンソース公開は、むしろ米国のラボを助けている」とワンは言う。実際、中国のDeepSeek(ディープシーク)が公開した強化学習の訓練アルゴリズムは、いまや多くの米研究室で標準設定になりつつある。中国製のモデルが米国製のハードウェア上で動く例も珍しくない。「ゼロサムの競争ではなく、互いに助け合っている。パイ自体を大きくすれば、両者とも勝者になれる」

ではなぜ、見返りの薄いオープンソースにこだわるのか。ワンはひとつの現実的な理由を挙げる。人材だ。「ラボを立ち上げたばかりのとき、優秀な研究者がなぜあなたのために働くのか。トップ人材の獲得は本当に難しい。だが優れたオープンソースモデルがあれば、いい仕事をしたと誰もが知る」。コードの公開は、世界中の技術者に向けた最も雄弁な求人広告でもある。

「蒸留」は盗用なのか、それとも読書感想か

ワンの立場は明快だ。モデルの蒸留は研究の世界では中立的な行為であり、それ自体に問題はない、という。

OpenAIやアンソロピックは、中国企業が自社モデルを「蒸留」していると非難してきた。蒸留とは、高性能モデルの出力を使って別のモデルを安く訓練する手法を指す。だがワンはこれを、ごく日常的な営みになぞらえる。「本を一冊読んで、その内容を誰かに伝える。相手も本の主張を理解する。蒸留とは基本的にそういうことだ」

しかも、この非難には皮肉がついて回る。米国勢も互いに蒸留し合っているからだ。「最近、イーロン・マスクが自社のxAI(エックスエーアイ)はOpenAIから蒸留したと認めた」とワンは指摘する。アンソロピックもChatGPTも、インターネット中をクロールしてあらゆる情報をかき集めてきた。「自分では知識を生み出していない者たちが、その知識の再利用を止めようとしている。興味深い光景だ」

彼の主張はさらに踏み込む。「AIが生成したコンテンツの著作権は、すべてゼロであるべきだ」。さもなければ、潤沢な計算資源を持つ者が無数の組み合わせを生成し、あらゆるものを著作権で囲い込んでしまう、というのが理由だ。

無料で配って、どこで稼ぐのか

モデルを直接売らなくても、収益化の道はいくつもある。鍵は「公開した本人が一番うまく動かせる」という非対称性にある。

中国のKimi(キミ)は自社モデルを無料公開したが、APIとサブスクリプションへの需要はむしろ旺盛だという。最高のインフラ基盤を持つからだ。モデルが公開されても、それを実際に動かすには各社がエンジニアの工数を費やさねばならない。「公開初日から、作ったラボには優位がある」とワンは説明する。微調整したモデルだけを公開し、土台となるベースモデルは手元に残して売る、という戦略もある。

最近は、ライセンスを書き換える動きも出てきた。Minimax(ミニマックス)はライセンスを改め、「このモデルで金を稼ぐなら、対価を払え」という趣旨に変えた。個人ユーザーは永遠に無料、しかしモデルを又貸しして稼ぐクラウド事業者は利益の一部を還元せよ、という線引きだ。タダ乗りを防ぎ、オープンソースを持続させる現実解だとワンは見る。

資本市場も追い風になりつつある。中国新興のZhipuの株価は、すでに10倍に膨らんだ。資金が計算資源と人材とデータを呼び込み、さらに優れたモデルを生む。この循環が、ラボを長く戦える場所にとどめておく。

中国市場が「トークン爆食い」へ走り出した

中国のAI活用は、コストの安さを武器に米国を上回るスピードで広がりつつあるようだ。

ワンが注目するのは、トークン(AIの利用量を測る単位)の価格差だ。米国はAIの可能性を切り拓く一方、その利用コストは大企業でも重くのしかかる。「Uberは1年分のトークンを4カ月で燃やし尽くした。マイクロソフトも、想定より高くついたと語っている」。対する中国には、安価なオープンソースモデルが揃う。

ワンが現地で目にしたのは「トークンマキシング」とでも呼ぶべき熱狂だった。中国のネット企業がこぞって従業員に無制限のトークンを与え、何ができるか試させているという。一部の大手は、社員に文書作成のような旧来の仕事をやめさせ、強制的に「AIネイティブ」へ作り変えているとも聞く。

無料のオープンソースモデルが「使える水準」を超えた瞬間、利用は指数関数的に伸びる。ワンはそう見立てる。「この1、2年で、中国から非常に面白いAIの使い方が次々と出てきても、私は驚かない」。設計図を惜しみなく開いた国が、いま静かに、採用の速度で先頭へ出ようとしているのかもしれない。