2026/06/18
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FDAがウジ虫療法で2種目のハエを承認。シンガポール企業が世界市場の独占を狙う

FDAがウジ虫療法で2種目のハエを承認。シンガポール企業が世界市場の独占を狙う

米FDAが傷治療用のハエの幼虫を承認したのは、2004年の1種目に続いてこれが2例目。シンガポールの1社が2種類を独占し、世界の「ウジ虫市場」制覇を狙う。

ハエの幼虫が「医療機器」になった日

米食品医薬品局(FDA)はこの6月、傷の治療に使うハエの幼虫として2種目を正式に承認した。申請したのはシンガポールのバイオ企業クプリナ・ホールディングスで、これによって同社は2種類の幼虫の認可を同時に持つ世界で唯一の企業になった。

新たに加わったのは、オーストラリアヒツジキンバエ(Lucilia cuprina)の幼虫だ。従来のウジ虫療法で主に使われてきた、緑色に輝くキンバエの一種(Lucilia sericata)の近縁種にあたる。後者がFDAの認可を得たのは2004年。その認可を勝ち取った研究者ロナルド・シャーマンは、いままさにこの新承認を申請したクプリナで医療・科学部門の責任者を務めている。

2種類の間に治療効果の差はほとんどないことは、会社自身も認めている。狙いは市場のすみ分けにある。緑色のキンバエは欧米の傷治療で馴染みが深く、新顔のヒツジキンバエはオーストラリア・アフリカ・アジア、そして南北アメリカの一部で知名度が高い。米テック系メディア『Ars Technica』の報道によれば、同社CEOは「2種の認可を持つのは当社だけ」と、市場を囲い込む強気の構えを見せた。

死んだ肉だけを食べる、外科手術より優しい掃除屋

ウジ虫療法の仕組みはこうだ。殺菌した幼虫を傷口に置くと、酵素を分泌して壊死した組織だけを溶かし、それを食べて取り除く。健康な組織には手をつけない。

正式には「マゴットデブリードマン療法(MDT)」と呼ばれ、糖尿病による足の潰瘍など、治りにくい慢性の傷が主な対象になる。メスで壊死組織を切り取る外科的な方法に比べ、幼虫は傷の細かな隙間まで入り込んで掃除するため、痛みが少なく効率的だと考えられている。さらに幼虫は抗菌物質を出して病原菌の繁殖や、膜状のバイオフィルムの形成を防ぐ。二次感染を抑え、組織の再生まで促すと指摘されてきた。

ハエの幼虫に傷を任せるという発想自体は、実は数百年前にさかのぼる。それでも現代医療がなかなか受け入れてこなかったのには、いくつもの理由があった。

なぜ、これほど広まらないのか

最大の壁は「気持ち悪さ」と、科学的証拠の薄さだ。

患者も医療者も尻込みする「うっ」となる感覚が、普及の熱を奪ってきた。一部の支持者は、幼虫を「生まれたての赤ちゃんバエ」「小さなセイウチ」などと愛らしく呼び替えるブランド改革まで試みている。だが、より根深い問題は別にある。MDTの有効性を裏づける質の高い臨床試験が、ほとんど存在しない。

小規模で質の低い研究では安全かつ有効と示されてきたものの、大規模な検証は手つかずのまま。結果として、この療法は外科手術を拒む患者や、手術に向かない患者への「最後の手段」という位置にとどまる。

タイミングも良くなかった。いま米国では、生きた肉を食い荒らす寄生性のハエ「ラセンウジバエ」の侵入が家畜産業を脅かしている。同じ「肉を食べるハエ」でも、治療に使う2種は本来、死んだ組織や腐肉を好む非寄生性だ(ヒツジキンバエはヒツジに寄生症を起こすことがある)。管理された治療下では、幼虫は傷の死んだ組織だけを口にする。それでも世間のイメージの中で、この区別はかすみがちになる。

ベーコンで誘い出す、ウジ虫医療の意外な余話

偶然ウジが湧いた傷が、思わぬ恩恵をもたらすこともある。

2018年、シカゴの研究者らは、治らない傷に偶然ウジがわいた2例を報告した。幼虫は壊死組織の大半を食べてくれており、「災い転じて福となった可能性がある」という。さらに見逃せない指摘もあった。悪性腫瘍のある傷は揮発性の代謝物や血液、腐敗組織を放ってハエを引き寄せるため、傷のウジはがんの早期サインになりうるというのだ。事実、報告された2例はいずれも、未診断のがんが後から見つかった。

もっとも、管理外で幼虫が暴れ出すと、取り出せなくなる危険もある。そんなとき、カリフォルニアの医師たちが編み出した解決策が、なんとも人間味あふれるものだった。生のベーコンである。

ある女性の耳まわりの傷で、実際に効果があった。ベーコンの細切れを耳に5〜10分巻きつけると、ウジがベーコンに群がり、まとめて除去できたという。なぜ効くのかは医師にもわからない。ベーコンが空気を遮って幼虫を表面に押し出すのか、脂が動きを活発にするのか、それとも単に幼虫がベーコンを好むだけなのか。

数百年前から人類のそばでうごめいてきた「気持ち悪い治療法」は、2種目の公式認可と一切れのベーコンを得て、現代医療の片隅でもう一度息を吹き返そうとしているのかもしれない。