新しい脳スキャン研究で、犬は人間の喜び・悲しみ・苛立ちという3つの感情を脳のレベルで区別していることが示された。実験の中心になったのは、社会的な合図を読む力に長けたボーダーコリーだ。
なぜ研究者はボーダーコリーの脳をのぞいたのか
数ある犬種の中でボーダーコリーが選ばれたのは、社会的な合図を読み取る能力が高く、人と関わることを特に好む犬種だからだ。
牧羊犬として知られるボーダーコリーは、羊飼いのわずかな身ぶりや口笛を読み取り、群れを動かすために改良されてきた。人の意図を細かく汲み取る仕事を何世代も続けてきた犬種であり、脳の中で人間の感情がどう処理されるのかを調べるには、格好の観察対象だったと言える。米紙ワシントン・ポストの報道によれば、研究者はこうした「人に協力的」な特性に注目して被験犬を選んでいる。
飼い主なら誰でも、犬が空気を読む瞬間を知っている。散歩の合図に飛び跳ね、こちらが沈んでいれば静かに寄り添う。今回の研究が問い直したのは、その反応が単なる条件反射なのか、それとも脳が人の感情そのものを処理しているのか、という点だった。
犬は人の感情をどう読み取っているのか
犬は人の表情や声のトーンといった複数の手がかりを組み合わせ、喜びや悲しみといった感情を脳のレベルで区別しているとみられる。
これまでの通説では、犬は飼い主の行動パターンを学習し、「この動きの次にはこれが起きる」と予測しているにすぎない、とも言われてきた。しかし脳スキャンが捉えたのは、行動の予測とは別に、感情の種類そのものに脳が反応している様子だった。喜んでいる人と苛立っている人とでは、犬の脳で異なる領域が働いていた可能性がある。
見落とせないのは、犬が読み取る感情がポジティブなものに限らない点だ。うれしさだけでなく、悲しみや恐れ、苛立ちといったネガティブな感情も区別していた。人間の子どもが親の不機嫌をいち早く察するように、犬もまた、わたしたちの負の感情に敏感なのかもしれない。長く一緒に暮らす相手の機嫌を読むことは、犬にとって生き延びるための実務でもあったのだろう。
一万年をかけて育った「読み合い」
犬の読心術めいた能力は、人とともに生きてきた長い時間の産物だと考えられている。
犬はオオカミから枝分かれし、人間の隣で暮らす道を選んだ最初の動物だとされる。その過程で、人の顔をまっすぐ見つめ、指さしの先を追い、声色の変化に耳を澄ます個体が、人に愛され、食べ物を分け与えられてきた。感情を読む力は、かわいらしさではなく、共に暮らすための実用的な技術として磨かれてきたと言える。
今回の研究が確かめたのは、その積み重ねが犬の脳の配線にまで刻まれている可能性だ。あなたが今日、言葉にしなかった疲れや小さな喜びも、足元の相棒はとっくに気づいているのかもしれない。読み取っているのは、案外こちらのほうかもしれないと思わせてくれる話でもある。





