ドーピングを「ルール化」した競技大会
「エンハンスドゲームズ」とは、パフォーマンス向上薬物(PED)の使用を公認した新しい競技大会だ。2023年に構想が発表され、2026年5月のメモリアルデー週末にラスベガスで初めて開催される。種目は水泳、ウエイトリフティング、陸上の3競技で、42選手が出場する。特設アリーナには約2,500人の招待客が集まる見込みだ。
Fast Companyの報道によると、出場選手の約9割がPEDの使用を公表している。ただし無制限ではない。使用が認められるのは米国食品医薬品局(FDA)が承認した物質に限られる。ヒト成長ホルモン、テストステロン、代謝調節剤などが主な使用薬物だという。いずれも世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が禁止リストに載せている物質だが、米国の法律上は合法だ。
五輪メダリストが永久追放覚悟で出場
「ステロイド五輪」とも呼ばれるこの大会に、五輪メダリストが複数参戦している。米国のスプリンター、フレッド・カーリー、競泳のコーディ・ミラー(米国)とジェームズ・マグヌッセン(オーストラリア)だ。WADAの規定では、PED使用が確認された選手は他の国際大会への出場を永久に禁じられる可能性がある。それでも選手たちを動かしたのは、賞金総額2,500万ドルという報酬だろう。
国際オリンピック委員会(IOC)とWADAは大会への批判を重ねてきた。しかし批判だけでは開催を止められなかった。PEDを使用する選手と使用しない選手が同じ舞台で記録を競うという、前例のない実験が始まる。
「長寿医療企業」が仕掛けるスポーツの新モデル
大会を運営するEnhanced社は、自社を「ダイレクト・トゥ・コンシューマーの長寿医療企業」と位置づけている。アスリートのパフォーマンスと回復力の最適化を掲げ、2026年5月8日に上場を果たした。投資家には起業家のピーター・ティールが名を連ねる。
大会はスポーツイベントにとどまらない。会場ではペプチドなどのパフォーマンス向上物質が来場者に販売され、フィナーレにはロックバンド「ザ・キラーズ」のコンサートも組まれている。大会そのものが、Enhanced社の製品ショールームとして機能する設計だ。
従来のスポーツが「薬物排除」を正義としてきた中で、エンハンスドゲームズは「全員が同じ条件で使えるなら、それも公平ではないか」という逆転の論理を持ち込んだ。パフォーマンス向上物質の市場が世界的に拡大する今、ラスベガスのアリーナで始まるこの実験が、最初の答えをまもなく出す。

