「アプリではない」という設計判断
ディオン・ニコラスは、カスタマーサービス自動化プラットフォームForethoughtのCEO時代にエグゼクティブ・アシスタントを雇っていた。その経験から「AIで同じ価値を民主化できる」と考えた彼は、2025年3月にForethoughtがZendeskに買収された後、共同創業者のヴォロディミル・リュビネッツとEspa Labsを立ち上げた。先週公開されたAI秘書サービス「Espa」は、月額25ドル(年額240ドル)で利用でき、1週間の無料トライアルも付く。
最大の特徴は、専用アプリが存在しないことだ。GmailとGoogleカレンダーを連携させた後、ユーザーはiMessage、WhatsApp、Slack、SMSのいずれかでEspaとやり取りする。ニコラスの狙いは「人間のアシスタントとのコミュニケーション体験を再現すること」だという。
「返信待ち」がストレスにならない理由
Gmailに組み込まれたAI機能は処理が遅く、応答を待つうちにユーザーの関心が離れてしまう。チャットボット型AIでは仕事と無関係な会話が混在しがちだ。Espaは既存のメッセージアプリに乗ることで、こうした摩擦を回避した。
1週間のレビューを行ったFast Companyのハリー・マクラッケン(グローバルテクノロジーエディター)は、応答に1〜2分かかっても「人間の同僚がすぐ返信しないのと同じで、不自然さがない」と評価する。毎朝のスケジュール要約や重要メールの通知に加え、航空券の受信メールを検知してカレンダーに登録し妻にccを送るという複合タスクもこなしたという。忘れていたカレンダーの招待を見つけて知らせてくれたこともあった。
ただし「先走り」も見られた。確認なしにイベント案内をカレンダーに登録するケースがあり、フィードバックで修正されたものの、AIの積極性とおせっかいの境界は使いながら調整する必要がある。メールの下書き機能では送信者の文体を模倣して返信案を作成するが、マクラッケンはAI生成のメールを一通も送らなかった。「返信に値するメールは自分で書くべきだ」という判断だ。
プライバシーと「やれること」の透明性
Espaはクラウドベースのサービスで、ユーザーが明示的に許可したGoogleアカウントにのみ接続する。ローカルPCでブラウザを自律操作するClaude CoworkやOpenClawと比較すると、アクセス範囲は限定的だ。設定画面にはEspaが把握している情報と実行可能なアクションが一覧表示されるため、「何をどこまで任せているか」を常に確認できる。
Google Drive、Docs、Sheetsとの連携は「近日公開」とされており、対応サービスが広がれば実用性は一段と増すだろう。
「Netflix以下の月額」で秘書を雇う
ニコラスは月25ドルという価格を「Netflixより安い」と位置づける。マクラッケンの評価は「有用だが、現時点ではやや高い」というものだった。7日間の無料トライアルでは全貌を把握しきれず、人間の秘書と同じく関係構築には時間がかかるとも指摘した。
それでも彼は追加で1カ月の課金を決めた。SiriからChatGPTまでAIアシスタント市場にはプレイヤーがひしめくが、Espaの「専用アプリを作らない」というアプローチは、技術の目新しさより人間の行動パターンへの寄り添いを優先する設計思想を映している。iMessageのスレッドの向こう側にいるのが人間かAIか——その境界が月25ドルで曖昧になる日は、思ったより近いのかもしれない。





