2026/05/25
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ボストンの病院が研修医に「森林浴」導入、自然療法を医学教育へ

ボストンの病院が研修医に「森林浴」導入、自然療法を医学教育へ

病院の向かいの森で

ボストンのアーノルド樹木園は、ある病院のすぐ向かいに広がる。ここで最近、青いスクラブ姿の研修医や医学生11人が輪になり、森林療法のセッションに参加した

指導するのは、スーザン・アブーカイア医師だ。病院管理職を20年以上務めたのち、認定森林療法ガイドの資格を取得した異色の経歴を持つ。「体に根が生えたと想像して、その根が地中に伸びていく様子を見つめてください」——彼女の誘導で、研修医たちはカルテやモニターから意識を引き剥がし、肌を撫でる風、免疫を高めるとされる樹木の精油成分、不安を和らげる鳥のさえずりに集中する。

2時間のプログラムでは「動くものを観察する」「さまざまな質感に触れる」といった課題が出された。参加者のキャット・ニューマン医師は「屋外にいると休暇を連想するので、すぐにリラックスできた」と話す。レキシス・デシェイザー医師は「普段は手がどこに触れるか常に気を配っている。何かを壊す心配なく自由に触れるのが新鮮だった」と振り返った。

数百件の研究が裏付ける森の効果

森林浴の健康効果は、「気分転換になる」という感覚的な話にとどまらない。NPRの報道によると、心血管機能の向上、脳機能の改善、睡眠の質の向上など、十数の健康指標と森林環境の関連を示す研究は数百件にのぼるという。

もともと「森林浴」は日本発の概念だ。1982年に林野庁が提唱して以来、日本の研究者たちが医学的エビデンスの蓄積を牽引してきた。その知見が今、形を変えて米国の医学教育に逆流し始めている。アブーカイア医師が実践する「森林療法」は、日本の森林浴をより構造化したプログラムであり、リラクゼーションではなく治療的意図を持った介入として位置づけられる。

「ストレス音でしか知らない同僚」と森で再会する

このプログラムが狙うのは、個人の癒やしだけではない。医療チームの関係性の再構築も重要な目的だ。

マイケル・ロザミリア医師の言葉が印象的だった。「職場では、同僚のことをストレスで出す音でしか知らないことがある。森の中で一緒に過ごすのは、まったく違う体験だった」。日常的に患者の生死と向き合う病院では、同僚との対話は申し送りや症例検討に限られがちだ。森という非医療空間が、人間同士のつながりを取り戻す装置として機能していた。

イーライ・シュワム医師は「救急車のサイレンが聞こえても、今は自分の担当じゃないと思えるのが心地よかった」と笑う。ハイテク医療と自然療法は対極にあるように見える。だがアブーカイア医師は「理想的にはこの2つを組み合わせる必要がある。全人的な健康という文脈に、自然を位置づけたい」と語った。

「ベビーステップ」から始まる変化

森林療法を医学研修に取り入れている医師は、全米でもまだ「ほんの一握り」だという。アブーカイア医師自身もこれを「ベビーステップ」と呼ぶ。だが、小さな一歩にはすでに確かな手応えがある。

研修に参加した医師たちは、今後同僚や患者にも森林療法を広める「アンバサダー」としての役割を期待されている。マイケル・パン医師は拾った松の枝をしならせながら「折れると思ったのに折れない」と感心していた。柔らかなタンポポ、滑らかな松ぼっくり、そして落ちていたプラスチックごみ——触れたものを語り合う時間が、新しい同僚関係の起点になっていたようだ。

救急車のサイレンが届く距離の森で、折れそうで折れない松の枝を手にした医師たちは、自らのしなやかさをも確かめていたのかもしれない。