シュミットの「ロケットに乗れ」が火をつけた
アリゾナ大学の卒業式で、元グーグルCEOエリック・シュミットが壇上に立った。「誰かがロケットの席を差し出してくれたら、どの席かなんて聞かずに乗りなさい」。AIを受け入れろという定番のメッセージだった。会場を埋めた卒業生たちの反応は、持続的で大きなブーイングだった。
The Vergeの報道によると、シュミット以外にも被害者は続出している。セントラルフロリダ大学では不動産企業幹部がAIを「次の産業革命」と呼んで芸術系学生に凍りつくような反応を受け、ミドルテネシー州立大学では音楽業界CEOが「嫌なら受け入れろ」と挑発してさらに火に油を注いだ。
数万ドルの学費と「君たちを置き換える技術」の落差
ジョージ・メイソン大学を政治学で卒業したペニー・オリバーは「当然のブーイングだ」と語る。「何万ドルもかけて教育を受け、これからチャンスを広げようとしている学生の前に、もう一生働かなくていい人間がやってきて『君たちを置き換える技術に乗れ』と言う。怒らない方がおかしい」。
卒業生たちが感じているのは、単なるAIへの不信ではない。経済的に安泰な立場から「適応しろ」と説教されること自体への拒絶反応だ。NYUゲームセンターでMFAを取得したオースティン・バーケットは「『ただのツールだ』と言えるのは、家賃の心配がない人間だけだ」と指摘する。
AI嫌悪は「食わず嫌い」ではない
興味深いのは、ブーイングが最も激しいのがリベラルアーツや芸術系の学部だという点だ。カリフォルニア芸術大学(CalArts)では学長が壇上から追い出される事態にまで発展した。同校はアニメーション業界の人材輩出校として知られ、まさに生成AIが直撃する分野の学生が集まっている。
バーケットの元同級生のなかには、自分たちを置き換えるAIモデルのトレーニング作業を請け負うギグワークに追い込まれた者もいるという。技術を使えば使うほど嫌いになる──そんな構図が浮かび上がる。
「断絶」が生むもの
卒業式のブーイングはまだ序章かもしれない。卒業シーズンは続いており、動画がSNSで拡散されるたびに反AI感情は強まっている。だが見方を変えれば、この摩擦は企業側にとって貴重なシグナルでもある。若い世代が何を恐れ、何に怒っているのかを、壇上で直接突きつけられる機会は他にない。
技術を社会に実装する側が、その技術に人生を左右される側の声を無視し続ければ、信頼回復のコストは雪だるま式に膨らむ。逆に言えば、ここで耳を傾けるCEOが現れたとき、卒業生たちの反応はまったく違うものになる可能性がある。

