クルーズ船で何が起きたか
23カ国から約150人を乗せた探検クルーズ船MV Hondius号で、航海中にハンタウイルスの感染が確認された。船はスペイン・カナリア諸島テネリフェ島に緊急寄港し、乗客は下船している。NPRの報道によると、米国籍15人と米英二重国籍1人の計16人がネブラスカ州オマハへ搬送され、うち1人はウイルス検査で陽性と判明した。残る15人は引き続き経過観察の対象だ。
ハンタウイルスは主にげっ歯類の排泄物を介して人に感染し、ヒトからヒトへの伝播はまれだとされる。ただし致死率が高いため、感染の疑いがある段階から厳重な隔離措置が取られた。別の米国人夫婦2人(うち1人に症状あり)はジョージア州エモリー大学病院の封じ込め施設に移送されている。
なぜネブラスカなのか
海も国際空港のハブも持たないネブラスカ州が搬送先に選ばれた理由は明快だ。ネブラスカ大学医療センター(UNMC)には、米国で唯一の連邦政府資金による「国立検疫ユニット」がある。さらに独立運用の「バイオコンテインメント・ユニット」も併設されており、両施設は世界最高水準と評される。
バイオコンテインメント・ユニットは2005年に約100万ドルで開設された5室の施設で、当初は炭疽菌テロとSARSへの備えとして設計された。2014年にはエボラ出血熱に感染した医師2人を受け入れた実績もある。国立検疫ユニットは2019年末に約2,000万ドルをかけて完成し、その直後にCOVID-19パンデミックで実戦投入されている。
陰圧室20室が支える隔離インフラ
検疫ユニットの中核をなすのは20の陰圧室だ。室内の気圧を外部より低く維持し、ウイルスを含む可能性のある微粒子が廊下や外部に漏れ出すのを防ぐ仕組みである。個室にはバスルーム、運動器具、Wi-Fiが完備され、長期の隔離生活にも耐えうる環境が整う。
バイオコンテインメント・ユニットは10床を備え、検疫ユニットとは完全に分離された空調システムで運用される。屋上のHEPAフィルターを通じた独自の排気経路を持ち、「一般的な病院の設計とはまったく異なる」と、同ユニット医療ディレクターのアンジェラ・ヒューレット医師はNPRに語った。ネブラスカ・メディシンのマイケル・アッシュCEOも「私たちはまさにこのような事態に備えて数十年間訓練を重ねてきた」と述べる。
20年の蓄積が証明する汎用性
注目に値するのは、この施設が特定の病原体ではなく「未知の脅威」を想定して設計されている点だ。炭疽菌対策として始まった構想は、SARS、エボラ、COVID-19、そしてハンタウイルスと、まったく性質の異なる病原体に次々と対応してきた。米国が連邦レベルの検疫施設を1カ所しか持たない現状には議論の余地があるだろう。しかしUNMCの20年にわたる投資と訓練は、病原体の種類を問わず機能する汎用インフラの価値を静かに証明した。次の未知の感染症が現れたとき、オマハの20室の陰圧室はまた最初の防壁として動き出す。

