インドの棚から缶が消えた
インドの主要都市で、ダイエット・コークをはじめとする炭酸飲料の缶が入手困難になっている。The Atlanticが報じた分析によれば、この品薄はインド固有の製造トラブルではなく、世界的なアルミニウム供給の逼迫が引き起こした現象だという。
アルミニウムは飲料缶だけでなく、自動車、航空機、建築資材、電子機器まで幅広い産業が頼る基盤素材だ。需要は年々拡大する一方で、供給側は複数の構造的制約に直面している。
なぜアルミニウムが足りないのか
アルミニウムの精錬には膨大な電力を要する。1トンの生産に約1万5,000キロワット時を消費するとされ、「電気の缶詰」と呼ばれるほどだ。エネルギー価格の高騰は、そのまま生産コストを押し上げる。
加えて、中東の地政学的緊張がサプライチェーンを圧迫しているとみられる。The Atlanticの報道は、イラン情勢と絡めてこの構造を分析している。紅海やホルムズ海峡周辺の不安定化は原材料の輸送リスクを高め、保険料や輸送コストの上昇を招く。
さらに、世界のアルミニウム生産の約6割を占める中国も、国内需要の増加と環境規制の強化により輸出余力が縮小傾向にある。複数の圧力が同時に作用した結果、ロンドン金属取引所(LME)のアルミ価格はここ数年で大幅に上昇した。
EVから缶ビールまで、値上がりの連鎖
コーラ缶の品薄は、消費者がアルミニウム不足を「体感」する最もわかりやすい入口にすぎない。
米国では、ビールやエナジードリンクのメーカーが缶の調達コスト上昇に直面し、一部は小売価格への転嫁を始めた。自動車業界では軽量化のためにアルミニウムの使用比率を高めてきたが、素材コストの上昇が車両価格を押し上げる可能性がある。EVのバッテリーケースにもアルミニウムは不可欠であり、グリーンエネルギー転換のボトルネックになりかねないとの指摘も出ている。
日本も無縁ではない。国内のアルミ缶年間生産量は約200億本に達し、飲料メーカーにとって原材料価格の変動は収益を左右する。日本はアルミニウムの地金をほぼ全量輸入に頼っており、国際価格の上昇は直接的な打撃となる。
リサイクル率95%の強みと新技術
ただし、打つ手がないわけではない。アルミニウムはリサイクル効率が極めて高い金属だ。再生に必要なエネルギーは新規精錬のわずか5%程度で、品質もほとんど劣化しない。
日本のアルミ缶リサイクル率は約95%と世界トップクラスにあり、この循環型の供給体制は原材料の輸入依存が高い日本にとって重要な緩衝材となる。再生アルミニウムの活用拡大は、精錬由来のCO₂排出を大幅に削減する効果も見込める。
精錬技術そのものの革新も進んでいる。アップルとアルコアが共同開発した不活性陽極技術は、精錬時にCO₂ではなく酸素を排出する仕組みで、商業化が進めば「電気の缶詰」のカーボンフットプリントを根本から書き換えるかもしれない。





