Maison de Sabréの「Sabrémoji」チャームは、バッグ製造で出た色とりどりの革の端切れから生まれる。同社は素材の95%を使い切ることを目標に掲げ、なめし工程では昨年だけで100万リットル超の水を節約したという。
バッグの主役は、もはや「チャーム」
顧客がこのブランドに惹かれる理由は、いまやバッグ本体ではない。ストラップに付ける小さな革のチャームだ。ポケモン30周年に合わせて出したピカチュウの限定版は、発売とほぼ同時に売り切れた。
Maison de Sabré(メゾン・ド・サブレ)の最新コレクションには、桜・ひまわり・デイジーといった精巧な革の花が並ぶ。マルハナバチやカタツムリも加わり、小さな庭のような世界をストラップの上に作る。前のシーズンには、さやえんどう・にんじん・唐辛子・きのこと、宝石のような色合いの野菜たちが登場していた。フォーマルなバッグに、遊び心という「ひと差し」を足す小道具である。
なぜ革の端切れがコレクターズアイテムになるのか
チャームが限定品になるのは、他のバッグを裁断した後に残る端切れから作られるためだ。手に入る端切れの色も量もその時々で変わるので、同じものは二度と作れない。
多くの顧客が知らないのは、この「Sabrémoji(サブレモジ)」と名付けられたチャームの出自だ。約5年前、ある素材倉庫が生産で余った高級革を抱え込んでいた。捨てれば高くつく。そこで兄弟は、以前から試作していたAirTag(エアタグ)ホルダーに端切れを転用することを思いついた。「余った素材が、どれも素晴らしい色合いだったんです」と、創業者の一人オマー・サブレは米ビジネス誌『ファストカンパニー』に語っている。
作るのは見た目より難しい。デザイナーがそのシーズンに使った革次第で色も数も決まるため、残った細片を寄せ集めて多色の意匠に仕上げる職人技が要る。しかも各チャームは、紛失防止タグAirTagを収められる実用品でなければならない。同社はこの特殊なレザーワークができる職人を探し、生産チームに技術を教え込んだという。
元歯科医の兄弟が描く「新しいラグジュアリー」
Maison de Sabréは、ニュージーランドで育ったサブレ兄弟が4万ドルの貯金で立ち上げたブランドだ。二人はもともと歯科医を目指していたが、父の病気をきっかけに「心の満たされない仕事に人生を費やしたくない」と考え、家業のように残るラグジュアリーブランドづくりへ舵を切った。
オーストラリアで売り出した最初の商品は、色鮮やかな革巻きのiPhoneケースだった。これが初年度だけで200万ドルを売り上げる。自己資金だけで6年間、消費者へ直販を続けたのち、いまはノードストロームやサックス、パリのボン・マルシェにも並ぶ。最大の市場は米国だという。
価格は1点400〜800ドルで、ルイ・ヴィトンやシャネルのおよそ3分の1から4分の1にあたる。同等の品質の革を使いながらこの値付けを可能にしているのが、地に足のついたサステナビリティだ。革は水を再利用する「DriTan(ドライタン)」という新しいなめし技術で処理され、1枚あたり22リットルの水を節約する。昨年はそれだけで100万リットルを超えた。なめしで出る副産物はバイオ燃料に変え、工場自体の電力にまわしているという。
チャームのために作られたバッグ
同社の最新作は、チャームを主役にするために設計されたバッグだ。クロスボディの「Soft Trio(ソフト・トリオ)」は、チャームを引っ掛ける金属リングをいくつも備える。付け替え可能なストラップやハンドル(これも端切れから作る)と組み合わせれば、720通り以上のスタイリングが生まれる。
「色をあえて完璧に揃えないのは、もっと個人的な何かを表現してほしいからです」と、弟のザネ・サブレは語る。倉庫にあふれた余り革をどう始末するかという小さな問題への答えが、いつしかブランドの設計思想そのものになった。裁断台の床に落ちた端切れから始まった発想が、次世代のラグジュアリー客を掴む鍵になりつつあるのかもしれない。





