フィリップモリスは1985年と1988年にゼネラル・フーズとクラフトを相次いで買収し、タバコの香料・添加物・包装技術を食品開発に転用した。現在、超加工食品は米国の包装食品の70%、子どもの摂取カロリーの62%を占める。
タバコ会社はなぜ食品産業に参入したのか
フィリップモリスが食品事業を買ったのは、単なる事業多角化ではなかった。タバコの研究開発資産を食品に転用する目的があった。
米ビジネスメディア Fast Company の報道によれば、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の医学教授で健康政策研究者のローラ・シュミットは、タバコ産業の訴訟を通じて公開された内部文書をもとに『米国公衆衛生学誌(American Journal of Public Health)』に論文を発表した。1980年代、タバコ産業は公衆衛生上の批判と訴訟の波に直面していた。フィリップモリスは1985年にゼネラル・フーズを、1988年にクラフトを買収する。
シュミットによれば、その動機は明確だった。「タバコの研究開発資産を食品に使いたかったから、食品事業に参入した」。両食品部門は1989年に統合され、2007年にフィリップモリスから分離される。現在ランチャブルズを製造するクラフト・ハインツは、2007年以降フィリップモリスとの関係はないと強調し、「現在の製品はたんぱく質や全粒穀物を増やし、糖分やナトリウムを減らしている」と述べた。
「ランチャブルズ」に注がれたタバコの技術
フィリップモリスはタバコと食品の研究開発を横断する「技術シナジー委員会」を設置し、香料・化学添加物・包装技術を両部門で共有していた。
ランチャブルズとは、クラッカーやハム、チーズなどが小さなトレイにセットされた米国の子ども向けプレパッケージ食品だ。子どもが自分で組み立てて食べる「おもちゃのような食品」として1980年代末から爆発的に売れた。日本でいえばクラシエの「知育菓子」に近い発想だが、昼食として日常的に食べられている点が大きく異なる。
フィリップモリスがタバコ用に開発した膨大な香料・着色料のライブラリーは、食品開発にそのまま転用された。タバコに採用されなかった人工甘味料の特許技術も、食品部門で活用されたとシュミットは指摘する。精製農産物原料や化学添加物のサプライチェーン、「化学的にカプセル化されたフレーバー」の製造技術も共有されていた。当時のフィリップモリスCEOハミッシュ・マクスウェルは「我々の主要事業はすべて共通の特性を持つ」と述べている。
超加工食品はなぜ「タバコと同じ」なのか
超加工食品を通常の加工食品から区別するのは、風味・食感・色を変える「化粧的添加物」と、原材料を分子レベルまで分解して再構成する極端な加工プロセスの2点だ。
パンのような一般的な加工食品とは根本的に異なる。シュミットはこう述べる。「化粧的添加物と極端な加工プロセス。この2つは、フィリップモリスがタバコ部門から持ち込んでランチャブルズに適用したものとほぼ同じだ。同じビジネスモデル、同じ配合戦略、同じ原材料、同じ加工技術を使っている」。
タバコ会社が所有していた時期の超加工食品は、嗜好性が突出して高い「ハイパーパラタブル」な傾向があったと論文は指摘する。脂肪・糖・ナトリウム・炭水化物が高水準で含まれ、過食を誘発する要因として研究で繰り返し示されてきた組み合わせだ。
1990年代の低脂肪ブームの際には、フィリップモリスのニコチン・フレーバー研究者がクラフトに派遣され、低脂肪食品の味を改善する役割を担った。クラフトの研究者たちは、低脂肪ランチャブルズの開発にニコチン研究者の貢献が不可欠だったと内部文書に記録している。もうひとつの共通点は「消費者主導の製品開発」という手法だ。心理学的調査で消費者の潜在的欲求を探り出してターゲットにする。タバコでは象徴的なカウボーイ広告「マールボロマン」が生まれ、食品では「子どもが本当に欲しいのは自律性と遊びの自由だ」という知見から、ランチャブルズが「おもちゃのように機能する食品」として設計された。
食品規制の議論は新たな段階へ
タバコと超加工食品を「別物」として扱う前提そのものが、学術的に問い直され始めている。
シュミットの問いかけは端的だ。「この食品を設計し、作った人たち自身が非常に似た事業だと考えているのなら、なぜ私たちはこの2つをそこまで別物として扱うのか」。タバコに対する公衆衛生上の規制と同様のアプローチが、超加工食品にも必要ではないかという議論が学術界で勢いを増している。
『米国公衆衛生学誌』は今回、超加工食品と慢性疾患・依存性の関連を特集号として丸ごと取り上げた。食品産業の設計思想がタバコ産業に由来するという歴史的事実が学術的に検証されたことで、規制の議論は「何を規制するか」から「なぜ今まで規制しなかったのか」へと移りつつあるようだ。





