5,200体のメッシが米国の庭に立つ
米ホームセンター大手ロウズ(Lowe's)が発表したのは、高さ約3メートルのリオネル・メッシのインフレータブル(空気注入式)人形だ。価格は99ドル。メッシ本人とのコラボレーションで制作され、髪型、ひげ、タトゥー、腕や脚の造形に至るまで本人が最終承認している。
5月中旬からは約6メートルの巨大版が米国内のW杯開催都市に出現する予定で、5月18日にはロウズのリワード会員向けオンライン販売が始まる。5月20日には一部店舗でも購入可能になるが、生産数はわずか5,200体だ。ロウズのジェン・ウィルソンCMO(最高マーケティング責任者)はFast Companyの取材に対し、「全数完売を見込んでいる」と語った。
巨大ガイコツ「スケリー」が生んだ庭デコ文化
ウィルソンCMOが強気でいられるのは、米国で急成長する「庭デコ」市場を背景にしているからだ。その起点は、2020年にライバルのホーム・デポが発売した約3.6メートルの巨大ガイコツにある。
「スケリー」の愛称で呼ばれるこのハロウィン装飾は、発売直後にSNSで爆発的な人気を獲得した。ホーム・デポが毎年再販する唯一のハロウィン商品となり、熱狂的なファンはハロウィン後もスケリーを庭に置き続けるようになる。季節ごとに衣装を着せ替え、入学シーズンにはバックパックを背負わせ、秋にはフラッグフットボールのポーズをとらせる。庭はいつの間にか「通年の自己表現の場」へと変わった。
ロウズもこの流れに乗り、ミニバケツやミニ工具箱といった小型グッズから、約3メートルの雪男アニマトロニクスまで「極小と巨大の両極」で商品を展開してきた。TikTokで流行した「ポーチ・グース」――玄関先にコンクリート製のガチョウを置き、季節ごとに衣装を着せ替える遊び――も、同じ潮流の一部だという。
不況下の「口紅効果」が庭に及ぶ
ウィルソンCMOはこの庭デコ人気を、経済学でいう「口紅効果(リップスティック・エフェクト)」になぞらえる。景気の先行きが不透明なとき、消費者は大きな出費を控えつつも、手の届く小さな贅沢には財布の紐を緩める。99ドルのメッシ人形は、まさにその「手が届く贅沢」を狙った価格設計だ。
「経済的なプレッシャーがあっても、人は喜びを求める」とウィルソンCMOは語る。「庭に大きなアイテムを置くだけで気分が明るくなる。消費者が求めているのは、そういう体験だ」。制作チームは当初、約4.5メートルや約6メートルの案も検討したが、素材コストと消費者の財布事情を天秤にかけ、約3メートル・99ドルに落ち着いたという。
ロウズの社内データによれば、パーソナライズされた庭装飾への需要は2020年以降、季節を問わず伸び続けている。W杯は新たな需要を生み出すというより、すでに成長中の市場にブースターを取り付ける機会だと同社は見ているようだ。
W杯の夏、庭が「応援スタジアム」になる
2026年W杯は米国・メキシコ・カナダの3カ国共催で、米国内だけでも複数都市が会場となる。自宅で試合を観るファンの数は膨大だ。ロウズの狙いは明快で、自宅観戦するファンが庭を通じて「自分もこの瞬間の一部だ」と近所に示したがるだろう、という読みにある。
ウィルソンCMOによれば、メッシ本人も完成デザインを気に入った。「マイアミの住宅街を車で走っていて、自分の人形が誰かの庭に立っているのを見られたら最高だ」と話したという。
2020年に約3.6メートルのガイコツが切り開いた「庭を自己表現の場にする」という米国の消費文化は、W杯の夏、約3メートルのメッシを迎え入れようとしている。





