「母を救ったのは誰だ」
エチオピア東部ディレ・ダワで育ったダウィット・タミルは、10歳のとき、妹の出産直後に母親が出血し続ける姿を目にした。伝統的な産婆は「双子かもしれないから待ちなさい」と助言したが、容態は悪化する一方だった。親戚の勧めで病院へ搬送された母は、助産師による胎盤の手動除去で一命を取り留める。
「母を救ったのは誰だ」——NPRの取材でタミルが振り返った、あの日の問いへの答えが「助産師」だった。現在はハラマヤ大学で助産学部の責任者を務め、次世代の育成にあたっている。
100万人の不足が意味する「年400万人の命」
2026年2月の研究は、世界で助産師が約100万人不足していることを明らかにした。国際助産師連盟のダニエラ・ドランディッチは「すべての地域で助産師が足りない」と語る。不足全体の47%をアフリカが占めるが、同地域の改善ペースは比較的速いという。
この不足は命の数に直結する。『ランセット・グローバル・ヘルス』誌(2020年)の研究によれば、助産師が十分に配置された場合、妊産婦死亡の67%、新生児死亡の64%、死産の65%を回避できる。年間400万人を超える命だ。一方で、WHOは妊産婦・新生児の死亡削減が過去10年間でほぼ停滞していると報告した。
1,000人から2万人——そして「あと100万人」
エチオピアは助産師の拡充を国策として推進してきた。国連人口基金のギータ・ラルによれば、2008年にわずか約1,000人だった同国の助産師は、現在2万人を超えた。タミルも「この20年で、都市部の病院で出産時に母親が亡くなるケースは目に見えて減った」と語る。
ただし国土の80%以上を占める農村部への人材配置は依然として課題だ。養成課程を終えた助産師の多くが都市部での勤務を選ぶためで、タミルは政府による農村勤務へのインセンティブ強化を訴える。
5月5日は「国際助産師の日」であり、2026年のテーマは「one million more(あと100万人)」だ。タミルは大学の正門に大型ポスターを掲げ、学校や地域集会で講演を重ねてきた。「なぜ母子の健康が大切なのか、助産師がなぜ不可欠なのかを、人が集まる場所ならどこでも話した」とNPRに語っている。ラルも「助産ケアのモデルが機能するという確信は着実に広がっている」と評価する。かつて母の枕元で祈ることしかできなかった少年の問いが、次の100万人を育てる原動力になっている。

