エネルギーコスト17%増、「巨額の小切手」では解決しない
アイスホッケーのリンクを維持するコストは、一般家庭の冷暖房費とは比較にならない。ハネウェルのビル自動化部門チーフ・ソリューション・オフィサー、グレッグ・ターナーによれば、アリーナやホッケーリンクのエネルギーコストは11〜17%上昇しており、「持続が非常に難しい」水準に達しているという。
しかもNHLのアリーナは単なるホッケー場ではない。バスケットボールの試合やコンサートなど数万人規模のイベントを開催する多目的施設であり、氷面を維持しながら大量の観客の体温や照明の熱に対応する必要がある。ターナーは「巨額の小切手を切れば解決する問題ではなく、現場ごとの協調と専門知識が必要だ」とFast Companyの取材で語っている。
ハネウェルのAI自動化、40年の知見をホッケーに転用
ハネウェルが提供するのは、AI制御のビル自動化技術だ。各施設のオーナーやマネージャーと対話し、運用上の課題を洗い出し、エネルギー請求書と運用コストを分析して、省エネモデルを構築する。照明・冷房・暖房をいつ稼働させるか、イベントの種類に応じてどう柔軟に切り替えるかを自動制御する仕組みだ。
「まず施設がどう運用されているかを学び、それを自動化する」とターナーは説明する。ハネウェルはビル自動化の分野で約40年の実績を持ち、今回のNHL提携はその技術をスポーツ施設に本格展開する試みとなる。
本当の狙いはユースホッケーの裾野拡大
この提携で最も興味深いのは、プロのアリーナよりもむしろユースホッケーへの波及効果だろう。NHLのビジネス開発・イノベーション担当EVPデイビッド・レハンスキーは、ホッケー特有の課題をこう指摘する。「どの町にもサッカー場や野球場やバスケットコートはある。それらの維持費は、アイスリンクの何分の一かだ」。
ユースホッケーの参加者数は増加傾向にあるが、他のスポーツに比べて参入コストが高い。リンクの運営コストを下げられれば、その分を施設改善に回せる。さらに効率的な施設の「設計図」ができれば、新しいリンクの建設コストも抑えられ、子どもたちがホッケーを始めるハードルが下がる可能性がある。
製氷という「見えないインフラ」の変革
スポーツのデジタル化といえば、選手のパフォーマンス分析や放映権ビジネスが注目されがちだ。だが施設のエネルギー管理という地味な領域こそ、競技の持続可能性を左右する。年間数十億円規模のエネルギーコストを抱えるNHLが、AI自動化で運営効率を証明できれば、他のスポーツリーグや大型施設への波及も早いだろう。レハンスキーは「より多くのアイスリンクを世に送り出す手助けをしてくれる企業は、そう多くない」と語る。製氷という見えないインフラに、静かな技術革新が始まろうとしている。

