2026/06/07
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エッツィの体で微生物4種が5,300年を生き延びた。氷漬けミイラの中で今も増殖を続ける

エッツィの体で微生物4種が5,300年を生き延びた。氷漬けミイラの中で今も増殖を続ける

エッツィ(アイスマン)の体から、5,300年前に定着したとみられる耐冷性酵母4種が生きた状態で検出された。2010年と2019年の試料比較でDNA断片が伸長しており、酵母は今も緩やかに増殖を続けている。

エッツィの体から検出された「生きた」古代微生物

1991年にアルプスで発見された5,300年前の銅器時代のミイラ「エッツィ」の体表・胃・体内水から、4種の耐冷性酵母が生きた状態で培養された。いずれも北極圏やアルプスの氷河で見つかる種の近縁で、死後まもなくエッツィの体に定着したとみられる。

エッツィはヨーロッパ最古の自然ミイラとして知られる。オーストリアとイタリアの国境にあるエッツタール・アルプスで、登山者が偶然その凍結遺体を発見した。以来、DNA解析から最後の食事の復元まで、あらゆる角度から研究が進んできた。今回、イタリアの民間研究機関ユーラック・リサーチ(Eurac Research)のミイラ研究所に所属する微生物学者モハメド・S・サルハンらのチームが、体表や胃の内容物、体内の融解水を採取し、微生物の全体像に迫った。

研究チームはショットガン・メタゲノミクス──試料中のDNA断片をまとめて解読する手法──と培養を併用し、古代由来の微生物と現代の汚染菌を切り分けた。その結果、フェノリフェラ属、グラシオジマ属、ゴフォージマ属、ムラキア属の4種の酵母が、エッツィの体内で生存していることが判明した。決定的だったのは時系列の比較だ。2010年に採取した試料と2019年の試料を並べると、後者ではDNA断片が長く、損傷も少なかった。古いDNAは時間とともに短く断片化する。新しいDNAが混ざっているということは、酵母がこの9年間にも増殖を続けていたことを意味する。

氷点下6度の保存室が酵母の「ゆりかご」になっていた

エッツィを収蔵するイタリア・南チロル考古学博物館の保存室は、氷点下6度・湿度99%に維持されている。氷河の環境を再現するこの条件が、通常の腐敗菌を抑える一方で、耐冷性酵母にとっては理想的な生育環境を提供していた。

保存室の湿度管理にはUV処理された水の噴霧が使われている。この水は大半の微生物を殺菌するが、氷河由来の耐冷性酵母は低温・高湿度でこそ活発になる種だ。サルハンらの表現を借りれば、酵母はエッツィの「自然の開口部」から死後に侵入し、以来5,300年にわたって宿主の体を栄養源としてきた。

一方で、保存室の環境は新たな「住人」も呼び寄せた。メチロバクテリウム属など、UV処理水に耐性をもつ現代の細菌がエッツィの体表に定着し、外部の微生物群を書き換えていることが今回の研究で明らかになった。保存という行為そのものが、ミイラの微生物構成を静かに変え続けている。

「動的な生物界面」としてのエッツィ

研究チームはエッツィの微生物群を3つの時間層に整理した。生前の腸内細菌、死後にアルプスの氷河から侵入した酵母、そして博物館の保存環境がもたらした現代菌の3層だ。1体のミイラが、3つの時代の微生物を宿す生態系として機能している。

「アイスマンは静的な遺物ではなく、動的な生物界面だ」とサルハンらは論文で結論づけた。この見方は、古代ミイラを「過去の断片」ではなく「現在も進行中のプロセス」として捉え直すことを迫る。南チロル考古学博物館のエリーザベト・ヴァッラッツァ館長は「さらなる研究と保存の取り組みが、何世代にもわたってエッツィを守るために必要だ」と述べている。

5,300年前に命を落とした銅器時代の男が、氷点下の保存室で今も微生物たちの宿主であり続けている。死は生態系の終わりではなく、別の生態系の始まりだったのかもしれない。