2026/08/23
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オックスフォードにromantasy専門書店、恋愛とファンタジーの融合本だけを並べる

オックスフォードにromantasy専門書店、恋愛とファンタジーの融合本だけを並べる
Photo by Chait Goli on Pexels

オックスフォードのロマンタジー専門書店「Bad Girl Books」は、恋愛とファンタジーを融合した本だけを並べる。読者は「スパイス」と呼ばれる性描写の濃さを気にするが、実際にはキス一つにたどり着くまで約400ページを読ませる作品も珍しくない。

ロマンタジーとは何か、なぜ専門書店が成り立つのか

ロマンタジー(romantasy)は、恋愛小説とファンタジーを掛け合わせたジャンルだ。ドラゴンや妖精が飛び交う異世界を舞台に、恋の駆け引きが物語の中心に据えられる。英語圏でこの数年に急成長し、いまや一つのジャンルだけで書店が成り立つほどの読者を生んだ。

店主のスターリン・マロが構えた棚には、一般的な書店の「小説」「歴史」「自己啓発」とはまるで違う見出しが並ぶ。「ドラゴン」「妖精」、そして「モンスター・スマット」。マロによれば、モンスター・スマットとは「『美女と野獣』を思い浮かべてほしい。ただし、彼はときに野獣の姿のままだ」というニッチな一角で、それでも専用の棚を割くほど人気があるという。

日本の読者には、「小説家になろう」などで一大勢力になった異世界恋愛ものを思い浮かべると近い。魔法や異種族の世界に恋愛を持ち込む発想は、海を越えて同じように支持を広げている。入門書を尋ねると、マロはサラ・J・マースの『いばらと薔薇の宮廷(A Court of Thorns and Roses)』を挙げた。多くの人が「一冊は読んだ知人がいる」と答えるほどの代表作だという。

なぜ女性たちは「いけない本」の棚に集まるのか

偏見を気にせず、女性の欲望を女性自身の視点から読める「安全な場所」だからだ。店名の「Bad Girl(悪い女の子)」も、このジャンルに向けられてきた偏見をあえて逆手に取っている。

マロは、これらの本が「本物の本ではない」「くだらない本だ」と見下されてきたことを知ったうえで、「くだらない本を読んでもいい」と読者に伝えたくて、この挑発的な名前を選んだ。性描写についても、単なる刺激ではないと語る。女性が物語の書き手となり、身体の自己決定権や欲望を女性自身の視点から描ける場になっている、と。

『ゲーム・オブ・スローンズ』に代表される男性中心のファンタジーにも露骨な描写はあるが、そちらには偏見や烙印が向けられない。同じ性描写でも、女性がつくる側に回った途端に「はしたない」と眉をひそめられる。その非対称性こそ、マロが面白いと感じる点だった。彼女がこの店を始めたのも、読者として肩身の狭さを味わった経験からだ。ある書店でスパイスの効いた作品をすすめてほしいと頼むと、店員にじろりと見られた。だからこそ米公共ラジオNPRのインタビューで語るように、「読者として自分が安心できる場所」を自分の手でつくろうと決めた。

文学の街オックスフォードに生まれた、新しい読者の居場所

オックスフォードにはロマンタジーの熱心な読者コミュニティが根づき、遠方からも読者が集まっている。C・S・ルイス、トールキン、オスカー・ワイルドといった文豪ゆかりの街に、まったく新しい読書の熱が芽生えた。

マロ自身が驚くほど、人々は遠くから足を運ぶ。ウェールズやマンチェスターから車を走らせる客がいる。ワイト島からフェリーで約4時間かけてたどり着いた人もいた。彼らが求めているのは一冊の本というより、後ろ指をさされずに好きなものを好きだと言える空気なのだろう。マロが読者として欲しかったものを、そのまま形にした場所だ。

「誰だって『悪い女の子』になれる」とマロは言う。性別も、ジャンルの格付けも関係なく、好きな物語に堂々とのめり込んでいい。ドラゴンと妖精の棚に集うために海を渡る人々は、その小さな許しを確かめているのかもしれない。