2026/05/25
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香水原料の95%は石油由来、NZ発ブランドがバイオ発酵で全面転換へ

香水原料の95%は石油由来、NZ発ブランドがバイオ発酵で全面転換へ

石油が支える香りのサプライチェーン

一般的な香水には十数種から数百種の香料分子が使われる。そのうち95%以上が原油から合成されたものだと、Fast Companyの取材に対してAbel Fragranceの創業者フランシス・シューマックは語った。安価で大量生産しやすい石油由来の合成分子が、現代の香水産業を事実上つくり上げてきた。

スキンケアやメイクアップの分野ではナチュラル志向の選択肢が増えた一方、香水だけは石油化学への依存が続いていた。元ワインメーカーのシューマックがこのギャップに気づいたのは2013年、ニュージーランドからアムステルダムに移住した直後だった。「誰もやっていないなら、自分でやれないだろうか」。彼女はマスターパフューマーのアイザック・シンクレアと組み、化石燃料ゼロの香水ブランド Abel Fragrance を立ち上げる。

当初はエッセンシャルオイルだけで調香を試みたが、壁はすぐに現れた。天然精油は持続時間が短く、数時間で揮発してしまう。合成防腐剤なしでは品質を安定させにくく、コストも高い。「天然素材だけで石油系と同等のパフォーマンスを出す」という目標は、従来のアプローチでは達成が難しかった。

バナナの廃水から生まれたトップノート

転機は、食品産業など他分野で進むバイオテクノロジーの応用だった。たとえばアンブロキシン。クジラ由来の希少素材アンバーグリスを模倣するために石油から合成されてきたこの分子は、いまでは植物糖を発酵させてラボで製造できる。化学構造は石油版と同一だが、原料はすべて植物だ。

Abel の最新作「Miami Split」のトップノートには、エクアドルのバナナ加工工場から出る洗浄廃水が使われている。ドイツの香料大手シムライズが開発した低エネルギー抽出技術により、従来は捨てられていたバナナ香の水から天然フルーツの香りを取り出した。シューマックによれば、その香りは合成のバナナキャンディとはまったく異なり、「青くて酸味があり、バナナの皮をめくったときのような果肉感がある」という。

廃棄物の再利用という持続可能性だけでなく、合成では再現しにくい複雑な香りを手に入れられる点が面白い。モロッコのアトラス山脈で採取される野生のシダーウッドなど伝統的な天然素材も併用しつつ、バイオ技術で持続性や安定性を補うのが Abel のアプローチだ。

バイオ香料は「ニッチ」を超えられるか

現時点でバイオ技術由来の香料分子は約100種にとどまり、数千種ある石油由来分子とは桁が違う。コストもまだ高い。だが原油価格の上昇がバイオ香料への投資を後押しする可能性がある、とシューマックはみている。

「バイオ技術は香水にとって、EV が自動車産業にとってそうであったような存在だ。原材料の出自を根本から問い直し、代替品がむしろ優れていると証明する試みだ」と、シューマックはFast Companyに語っている。大手香料企業もこの領域を注視しており、「移行への意志は本物で、もはやニッチな議論ではない」と彼女は言う。

バイオ香料のパレットが広がれば、石油では作れなかった香りが次々と生まれる。エクアドルの廃水が運ぶ「青い果肉感」は、その最初の一滴かもしれない。