書店からアルゴリズムへ、出版販促の10年
10年前、本を売る中心は書店とニューヨーク・タイムズのベストセラーリストだった。文芸エージェントでエンパイア・リテラリー社長のアンドレア・バルツヴィは「今日、本の発見はアルゴリズムに外注されている」とFast Companyに語った。出版社はこれまで以上にソーシャルメディアに依存するようになったという。
TikTokの読書コミュニティ「BookTok」は、その代表的な成功例だ。『アキレウスの歌』や『It Ends With Us』などを口コミで大ヒットに導いた実績がある。だが、BookTokでの成功はアルゴリズムの運次第であり、投稿がバズるかどうかを著者はコントロールできない。
ニュースレターの読者はSNSフォロワーより本を買う
そこで注目されているのがSubstackだ。レナ・ダナムは新作回顧録『Famesick』の販促にSubstackを全面活用した。3万2,000人の購読者を持つエミリア・ペトラルカの『Shop Rat』から、15万人超の読者を抱えるエミリー・サンドバーグの『Feed Me』まで、複数のニュースレターでインタビューに応じた。
ダナムは「1人のSubstackフォロワーは、インスタグラムやXの何倍もの価値がある」と断言する。フォロワー数が多くてもエンゲージメントの低いメディアより、少数でも熱心な読者を持つニュースレターのほうが販売力は高いという実感だ。
料理本『Don't Think About Dinner』の著者ジェン・ルーケも同じ見解を示す。「購読者が実際に投稿を見てくれると分かっている」と語り、SNSではアルゴリズムに遮られて届かない投稿も、ニュースレターならメールボックスに確実に届くと強調した。ルーケはSubstackを販促の中核に据え、他のSNSを補助的に活用する戦略で成果を上げた。
著者が自分のメディアを持つ時代
この変化はSubstackだけに限らない。セルフ出版プラットフォームDraft2DigitalのCEOクリス・オースティンによると、大手出版社もインディー著者のマーケティング手法から学び始めているという。従来の紙面広告から、著者自身がファンベースを構築するモデルへ、業界全体が移行しつつある。
Bookshop.orgのCEOアンディ・ハンターは「プレスツアーは分散化した。個人のクリエイターが旧来のメディアよりはるかに大きな影響力を持てる」とFast Companyの取材で語った。書店巡りの時代に戻ることはないだろう。だが、著者にとっての「書店」は消えたのではなく、読者のメールボックスの中に移っただけかもしれない。

